セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.545『農協改革と中山間地域

政治・経済

2015-02-09

 アベノミクスの“第三の矢”である規制緩和の目玉は,農協改革。日本の農家を支配・統制してきたJA全中を解体し,TPP交渉の行方もにらみながら,生産者の経営自由度を促進させ,農業を成長産業へと脱皮させようというものだ。

 かつて,小泉政権においても,農協の金融・共済・経済事業を郵政三事業と同様に見立てて分割する提言がなされたが,自民党の農林族議員から猛反発を受け,“郵政優先”ということで引っ込められた。当時の規制改革推進会議がまとめた中間報告では,農協主導による資材購入や農産物販売などの経済事業は高コスト体質となっており,国際競争力が著しく損なわれているとして,不採算部門からの撤退を求めている。その中には,当時全国に約5千ヶ所あったJA-SSも含まれていた。

 今回の農協改革が,JA-SSの経営にどれほどの影響を及ぼすかはわからないが,恐らく自由化によって多くの都府県が,SS事業の縮小,もしくは撤退を進めることだろう。しかし,以前にもこのコラムで書いたが,JA-SSは,農産物はもちろん,各種の保険や金融商品,電化製品や住設機器から住宅・不動産のたぐいまで,他のGS運営会社には真似できない,多種多様な“油外商品”を取り扱うことができる。冠婚葬祭サービスまであり,まさに『ゆりかごから墓場』まで,何でも揃っているのだ。だが,縦割りの硬直化した組織においてこうした特性が生かされることはまれで,ほとんどのJA-SSは,フツーのGSのまま今日に至っている。もったいないことだ。

 皮肉なことに,近年,中山間地域を中心にGSの過疎化が進みはじめたことで,地元農協が組合員からの出資を募り,食料品や生活用品なども購入できるGSを経営するという事例が幾つか見られるようになった。しかし,やむにやまれぬ状況に追い込まれた末の事業であることは否めず,もはや遅きに失した感がある。

 今後,各地の農協がGS事業から撤退するようなことになれば,GSの過疎化は一層加速する。高齢化が進む中山間地域の人々にとって,それは生命を脅かす問題となっている。石油元売は何ら手を打とうとせず,作らなくてもいいところにばかり出店する始末。そこで,経済産業省は,タンクローリーから自動車に直接給油することが出来る装置を開発するなどの予算として約1億5千万円を来年度予算案に計上し実証試験を始めるとのことだ。無論,消防庁は慎重姿勢を取っているが,住宅街の真ん中ならいざ知らず,田んぼや畑ばかりの所であれば,それほど難しいことではないように思う。今後,被災地における燃料供給においても有効な手段になるだろう。

 ただ,装置が開発されても,給油できるのは,資格を持つ石油販売業者の従業員などに限る方向のようだ。確かに,タンクローリーから装置への接続はローリーの運転手が行なうほうが安全だが,そこから先は有資格者監視のもとでのセルフ給油で良いと思う。セルフ給油が安全であることは,すでに十分実証されている。それに,このあいだ,某元売会社の100㌫出資子会社である家庭用灯油の巡回販売業者が,数量をごまかして浮かせた代金を着服していた事例からもわかるように,自分で給油したほうが,別の意味においても“安全”といえるだろう。

 農協改革の話からずいぶん離れたところへ着地することになったが,つまりは,いかなる事業も,時代や環境の変化に対応せざるをえないということ。そして,役所や組合が必要以上に監督すると,大抵はその業界の進歩や成長は阻まれるということ。江戸時代の天保期(1830~44年)に,いまの千葉県旭市で発足したとされる日本の代表的な協同組合の事実上の終焉は,改めてそのことを思い知らせてくれた。

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