セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.547『ラーメン店主の死』

オピニオン

2015-02-23

 もう,1ヶ月前のことだが,家内と一緒に時々行くラーメン屋に立ち寄った。すると,「臨時休業」の張り紙。何日かあとに再び前を通りがかったが,店は閉まったままだった。60代ぐらいの親父さんが一人でやっている,十人も入れば一杯になってしまうカウンターだけの小さな店だった。「親父さん,体でも壊したのかな~」と思っていると,今月のある日,店の前に『店主急逝のため閉店いたしました。永年のご愛顧に感謝します』─。

 かれこれ十年以上通っていたお気に入りの店だったし,いつも気さくでニコニコしながらラーメンを出してくれた親父さんにもう会えないのかと思うと悲しかった。あっさり醤油味のスープと縮れた平うち麺の,いわゆる“昔ながらの中華そば”で,時々無性に食べたくなったりしたが,もう叶わないかと思うと残念でならない。生前,跡を継がせる人はいないの?と親父さんに尋ねたことがあったが,「こんな小ちゃな店,わしの代で終わりだわ」と笑っていた。

 それなりの規模の会社や店であれば,ナンバー2のような人物が事業を継承し,当座は経営を続けて行くことができるが,小さな飲食店や小さなガソリンスタンドともなると,店主が死んでしまったらそのまま閉店となってしまう恐れがある。そんなことで,お客様を悲しませたり,混乱させたりしないためにも,どんな小さな会社であれ経営者は“もし自分が死んだらどうすべきか”を,家族なり従業員にあらかじめ具体的に伝えておかなければならないと思う。どんな人間でも,あすも生きながらえるという保障はないのだから。

 しかし,ラーメン店の跡を継ぐというのは,なかなか容易なことではないが,GSのそれはさほど難しいことではないとも思う。“秘伝のスープ”も“こだわりのチャーシュー”もなく,ただガソリンを仕入れて,それを給油するだけだ。つまり,商品を仕入れるための現金さえあれば,どこからでもガソリンを仕入れることができるので,とりあえず何とかなるということ。それゆえ,経営者は,自分が死んだらそれなりの金額が会社の運転資金として支払われるよう,生命保険にかかっておく必要があるだろう。

 店主の“顔”や“技”がラーメン店を支えているのとは対照的に,GSは経営者が変わっても,あまり変化はない。接客をしないセルフスタンドであればなおさらだ。例えば,私の店の客は,だれが店主かなんて知りもしないし,知りたいとも思っていない。それでいいのだ。GS経営者が気を配ることは,店の保守・営繕とコスト管理に尽きる。

 まず,仕入れコスト。製麺所や精肉店に「今後ともよろしくお願いします」と頭を下げてまわる必要はない。どこで買っても同じものなのだから,当然,安いものを買うこと。仕入れ各社からの見積もり単価を入力すれば,その日,どこへ発注すれば一番安いコストで調達できるかが一目でわかるよう計算表を作っておけば,中学生でも容易に判断できる。

 次に,運営コスト。これはもうセルフに尽きる。先に紹介したラーメン店の親父さんは,「人なんか雇っとる余裕なんかあれせんわ。それに,一人のほうが気楽でええわ」と言っていたが,さすがにGSを一人では運営できないので,できるだけ簡素な運営システムにしておくなら,跡を継ぐ人に間違いなく感謝されることだろう。ゆえに,GSのセルフ化は経営者が次世代のために果たすべき務めであると言いたい。

 犯罪や事故,疫病や災害など,人はいつその命を絶たれてしまうかわからない。ラーメン店の親父さんがなぜ亡くなってしまったのかはわからないが,彼の突然の死は,私たちの明日の命がいかに不確実なものであるかを思い知らせてくれた。ああ,それにしてもあのラーメン,もう一度食いてぇなぁ…。

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