セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.551『セルフ疲れ』

オピニオン

2015-03-23

 私が小学生だったころ,自宅から歩いて1分もかからない場所に喫茶店が開店した。普通の倍ほどもある大ぶりのカップになみなみと注がれたコーヒーに,厚切りトーストとゆで卵の豪華なモーニングサービスが付いてきた。店内は標準的な喫茶店よりずっと広く,ゆったりとしたソファが置いてあるうえ,新聞や雑誌などが各種取り揃えられていた。一方で,テレビや漫画本,ゲーム機などは置いていなかった。小学生の私の眼にも,普通の喫茶店とは違う店に映ったのだが,たちまち評判となり,名古屋市内に次々と店舗を増やしていった。それが,現在東北から九州まで600店舗以上を展開する「コメダ珈琲店」の本店だ。

 いまも同じ場所で営業しているコメダ本店は,土日曜ともなると,朝から店の外まで客が並ぶ繁盛ぶりだが, 最近,こうした“くつろげる”喫茶店が大人気なのだとか。喫茶店の経営や歴史に詳しい経済ジャーナリスト 高井尚之氏によると,スタバやドトールのようなカウンターで飲み物を受け取るカフェを「セルフ型」,コメダのような店員が注文を取りに来る昔ながらの喫茶店を「フルサービス型」と呼ぶのだそうだ。高井氏は,80年代半ば以降,セルフ型カフェが主流になっていたのだが,最近,消費者に「セルフ疲れ」が生じていると指摘している。その背景には,団塊世代の人々がリタイアし,時間に余裕を持つようになったことや,東日本大震災以降の人生観の変化などがあり,「セルフ型カフェは椅子が硬いうえ,隣の席との空間が狭くて,くつろげない。多少値段は高くても気兼ねなくゆったり過ごして人生を楽しみたい」と考える人が増えてきたのだという。

 このような話を聞くと,GS業界でもフルサービスが今後の潮流となるのでは,と思われるかもしれないが,私は否定的である。その理由のひとつは,価格体系だ。スタバのレギュラーコーヒーが320円なのに対して,コメダは420円。これをガソリン価格に置き換えると,130円のセルフ店に対して,フルサービス店は170円ぐらいで販売していることになる。“ゆったりとくつろげるゲストルーム”や“人間味あふれる接客”によって,この価格差をカバーし,なおかつセルフ店と同じかそれ以上の客を呼び込むことができるフルサービス店は,全国にどれぐらいあるだろうか。

 別の理由は,消費者が喫茶店に求めるものとGSに求めるものは違うという点。前述のジャーナリスト氏の分析どおり,喫茶店での過ごし方は,人生の過ごし方に直結している。コーヒーは自宅で幾らでも飲めるのに,わざわざ喫茶店に行く人々は,そこで過ごす“時間”や“空間”を買い求めに来るのだと思う。一方,ガソリンはGS以外の場所で購入することはできない。つまり,多くの消費者にとってGSは“仕方なく行く場所”であって,そこに憩いや安らぎの時間を求める人はまれだと思う。もちろん,殺伐とした社会の中で,給油に立ち寄ったGSの店員に掛けられた言葉で癒されたという人もいることだろう。しかし,だからといって1㍑40円も高いガソリンでも構わないとは言ってくれる人はほとんどいないと思う。

 私にとっての喫茶店とは,だれかと打合せをしたり,歓談したりする場所であり,待ち合わせの時間つぶし以外に,独りで喫茶店に行くなどという経験は記憶にない。コーヒー片手にくつろぎたければ,セルフスタンドの監視室でいつでも好きなだけできる。それどころか,件のコメダ本店に行くと,空席を待つ客を尻目に,4人掛けのテーブルに一人でスポーツ新聞を広げて居座っているおっさんが何人もいるのを見つけて,その回転率の悪さに苛立ち,逆にくつろげない。やはり,もって生まれた性分が,セルフ志向なのかもしれない。

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