和田 信治
政治・経済
2015-04-20
『自民党は14日,ディスカウント店や大手量販店での酒類の過度な安売りに対する規制を強化する酒税法などの改正案を了承した。安売り競争が激化し,中小酒販店の経営が厳しくなっていることに対応する措置。超党派の議員立法として改正案を今国会に提出し,1年以内の施行を目指す』─4月14日付「時事通信」。
規制緩和は安倍政権の肝だったはずだが,それに逆行するような今回の動きの背景には, 全国の「酒屋さん」らでつくる酒販組合が自民党などの議員に,行き過ぎた酒類の安売りに歯止めをかけるよう働き掛けたためらしい。酒店の経営者は地元の名士であることが多く,伝統的に自民党の支持母体であるため,その声を無視することはできないのだそうだ。
国税庁によると平成7年度に全体の79㌫だった一般酒販店の割合は,量販店との競争激化で,24年度には31㌫まで低下している。その間,酒類の不当廉売に対する申し立てや苦情は,他の物品に比べて群を抜いて多かったそうで,この状態を放置しておくと,酒税の円滑な徴収が阻害される恐れがあるとして法改正に乗り出したという側面もあるようだ。しかし,その結果,国民の酒離れが進んだら元も子もないようにも思えるのだが。
酒だけでなく,ガソリンの安売りにも同様の法規制を設けてほしいとの声が早くも業界内であがってきているようだが,私は感心しない。確かに行き過ぎた価格競争は問題だと思うが,他の業者を排除するため,仕入れ原価を下回るような不当廉売は独禁法で明確に禁じられている。ガソリン販売でもそうした違法事例がみつかれば,まずは公取が取り締まるべきだろう。「弱者保護」と言えば聞こえは良いかもしれないが,お上に利益を保証してもらうような業界が,消費者から支持され,繁栄したためしはない。
そりゃあ,かく言う私だって,20日現在,日進市において122~3円の価格看板を出し,なおかつ,カードだ,メールだ,パスだと値引きして売っている○ッソや○ェルのGSを懲らしめてやってくれ~という気持ちにならないこともない。しかし,それらは,それぞれのGSの“経営努力”の結果として設定された価格であり,それこそが,消費者にとっては,自由競争による最大の恩恵なのだ。これを奪われたら,消費者からそっぽを向かれるのは必定だ。この競争に耐えられないプレイヤーは,私も含め退場するしかない。
まもなくゴールデンウィークに突入するが,儲けることは罪悪であるかの如き安売り合戦が今年も展開されることになろう。愚かなことだが,それをやめさせようとしてはならない。系列店であれ,PB店であれ,コスト競争力のない者は,そのような競争の中で死期を早めるだけだ。元売による事後調整や利益保証がなされているGSがあるとの話も聞くが,もしそうなら,元売の体力も消耗してゆくことになる。愚かなプレイヤーは,一日も早く脱落してもらったほうが業界のためになる。
かつて,アインシュタインは学生との対話集会で,「第三次世界大戦が起これば,必ず核戦争になるだろう」と語った。「では,そのあと世界はどうなってしまうのでしょうか」と問われ,彼はこう答えたという。「それはわからない。しかしこれだけははっきり言える。第四次世界大戦が起きた時に人類が手にしている武器は,核ではなく石だろう」─。
斜陽の時代を迎えてもなお,愚かな戦いを続けるようなら,GS業界は近い将来自ら滅びてしまうか,酒販業界のように,官の介入によってダイナミズムを奪われ,無気力で魅力のない業界に成り下がってしまうかのどちらかだろう。
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