セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.558『正直者』

GS業界・セルフシステム

2015-05-18

「あのー,すみません…財布落ちてませんでしたか?」─。先日,若い女性二人組が私の店に訪ねてきた。4時間ほど前に給油した際,財布を落としてしまったのではないかとのことだった。財布の中に免許証やクレジットカード,部屋の鍵まで入っていたという。早速,監視カメラの録画映像で調べてみると,プリカを買ったあと,軽自動車の屋根に,長方形の財布をポンと置いて給油をし,そのまま財布を乗せて発進して行くという,時々やらかすパターンだった。

 大抵は,そのまま画面から消えて行くので,「どこかに落っこちているはずだから,道沿いに探してみたら」とか「警察に落し物として保管されているかもしれないよ」などと気休めの言葉をかけて見送るのだが,今回は,店を出るところで財布が落っこち,画面の端に映っていた。しばらくすると,次に給油に来た年配の男性客がその財布に気づき,拾って出てゆく様子も確認できた。「このおじさんが警察に届けてくれているかもしれないし,そうでなくても,車種とナンバーを頼りに探してみたら」と勧めて,帰ってもらった。

 翌日,彼女たちが今度は警察官を伴って,また店にやってきた。あのあと,財布を拾った男性が電話をかけてきて,財布を渡すからどこそこまで取りに来てほしいという。二人で指定の場所に行くと,男性から財布を渡されたが,現金が入っていない。「一万二千円ぐらい現金が入っていたと思うんですけど」「いや,わしは拾っただけで中身は触ってはおらんよ」「どこで拾われたんですか?」「え~と,コンビニだったかな」「でも,あなたがガソスタで財布を拾うのを,わたしたち録画で見ましたよ」「いや,とにかくわしは知らん。じゃあ」と言って男性は足早に立ち去って行ったので,彼女たちは跡を付けて(!),男性の自宅を突き止め,車庫に停めてあった車も確認したうえで,警察に相談したとのことだった。

 警察官に録画映像を見てもらったが,男性が現金を抜き取る決定的瞬間が映っているわけではない。「普通は現金だけ抜き取って,財布は捨てられちゃうところだけれど,免許証やカードが帰ってきただけでも良かったんじゃない。とにかく,財布を屋根に乗っけて給油しちゃあだめだよ」とたしなめたが,彼女たちは怒りが収まらなかったようだ。刑事事件として裁判で争うという姿勢を示し,被疑者とされた男性は警察署で取り調べを受ける羽目に。すると,男性は現金を抜き取ったことを白状し,同額を弁済することで和解となった。

 彼女たちが,菓子折り持参でそのことを報告しにやってきた。「本当にありがとうございました。警察の方からも,GSの方が積極的に協力してくれたので解決できたのだから,感謝を伝えておいてくださいとのことでした」─。それにしても,大した根性だ。彼女たちが言うには,たとえお金を抜き取ったあとでも,警察に届けてくれたのなら仕方がないと諦めるところだったけれど,呼び出した挙句,謝礼を要求するようなそぶりを見せたので,アタマに来たのだという。スケベ根性を出したのが運の尽きになったということか。

 それにしても,今回は彼女たちの訴えが正しかったことが証明されたから良かったものの,もし,彼女たちが悪党で,空っぽだったにもかかわらず“三万円入っていた”などと訴えたらどうなっていただろう。そう考えると,うっかり財布なんか拾うもんじゃあない,とも思う。私の店で落し物を保管した場合は,持ち主が取りに来たとき,財布であれば必ず中身を確認してもらい,すべて返却された旨の確認書に署名してもらうことにしている。プリカであれば,いつ,どんな車で,どこの場所で給油したかを答えてもらい,録画映像と合致していることを確認して返却している。「あなたが無くしたのはこの千円プリカですね」「いいえ,一万円プリカです」なんて,まるでイソップ物語に出てくる不正直な木こりのような輩が世の中には結構いるのだから。

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