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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.570『王さん』

エンタメ・スポーツ

2015-08-10

 今年の夏の高校野球は,第100回の記念大会。私は野球好きだが,高校野球にはそれほど関心がない。むしろ,あまり好きではない。相変わらずの坊主頭に,戦争中のライフスタイルが感じられたり,エースピッチャーが猛暑の中で連投する姿に“特攻精神”のにおいのようなものを感じたりして,とにかく,高校野球には何かあの時代の影のようなものがまとわりついているような気がしてならない。その一方で,球場ではなく,戦場で戦わねばならなかった若者たちの無念と悲しみを思い巡らしたりもする。

 そんなセンチな話はさておき,今年の大会の始球式を務めたのは,“世界のホームラン王”王 貞治氏であった。早稲田実業のエースとして甲子園で優勝し,長嶋茂雄と共にジャイアンツの黄金期を築き,ホークス監督として今日のパ・リーグの隆盛に貢献した王さんこそ,まさにアマ・プロ通じて日本球界の頂点に立つ人物といえる。これまで高校野球の開会式など見たこともなかった私だが,6日の中継は,王さんの投球をライブで見ようと,テレビの前にいた。にこやかに,慎みある所作でマウンドに立った75歳の王さんは,山なりながらも見事に外角やや低めにストライクを投げ込んだ。嗚呼…。

 王さんは,今年の1月に「日本経済新聞」の「私の履歴書」に連載記事を寄稿した。政治家や経営者の自慢話とは違い,その筆致は実に謙虚で,気品があり,感動した。数々の栄光に輝く王さんの人生は,実は挫折と苦悩の連続だった。特に,巨人の監督を解任されてから11年後にダイエー(現・ソフトバンク)ホークスを日本一に導くまでの苦闘は,素晴らしくもあり,すさまじくもある。王さんは連載記事の最終回をこう結んでいる。『私も最初の3年間はダメだった。監督としても逆境ばかり。不器用な私はただ「負けたくない」の一心で乗り越えてきた。くじけそうになったら「王にもずいぶんつらいときがあったらしい」と思い出してみていただきたい』─。

 “世界の王”と,けちなガソリンスタンドの経営者では比べるべくもないが,その忍耐力には見習いたいものである。“三振王”と罵倒されても,夜が明けるまでバットを振り続けた王。ファンの期待に応えるべく重圧と戦い続け868本ものホームランを打った王。巨人の監督として挫折を味わい,福岡に渡ってからも屈辱にまみれた王。常勝軍団を作り上げたのも束の間,プレーオフやクライマックスシリーズという理不尽な制度によって辛酸を舐めた王。その後,胃を全摘出するという大病に見舞われながらもグラウンドに立ち続けた王─。並の人間ならとても耐えられないであろう試練を幾つも乗り越えた忍耐力は,わたしたちをどれほど勇気付けてくれたことか。それゆえ,始球式での,けれんみのない見事な投球に,熱いものがこみ上げてきたのである。

 GS経営も,まさに忍の一字。長い長いトンネルの中にいるような毎日だが,とにかく日々のコスト管理を怠らず,愚直に営業を継続してゆくしかない。原油価格の下落に呼応して,GS業界はまたぞろ“値下げ熱中症”に陥っているかのような状況だが,自分を見失うことなく“レベルスイング”を心がけることが肝要だ。王さんはスランプに陥ると,一本足打法を二本足に戻すよう助言を受けたり,王シフトの裏をかいて流し打ちをするよう勧められたりしたそうだが,頑として受けいれなかった。しかし,そのひたむきさがあったからこそ今日の王さんがあるのだ。私の“ローコストセルフ打法”も,忍耐強く継続してゆこうと思う。ただこのところずーっとスランプなのだが…。

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