セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.58『安全性向上について』 

オピニオン

2005-05-09

 先月25日に起きたJR福知山線の列車脱線事故は、百七人もの犠牲者を出す大惨事となった。事故発生の詳しいメカニズムはこれから解明されてゆくものの、これまでの調査で、どうやら過密ダイヤの中で遅れを取り戻そうとした運転士のスピードオーバーが直接原因になったようである。JR西日本の採算性を過度に重視した経営体質や社員教育がこのような事故を引き起こしたとして、同社は連日もの凄いバッシングを受けている。しかも、事故当日百八十人を超える職員が、旅行やコンペに興じていたということまで明らかになり、JRの社員は“人でなし”呼ばわりされ、いまや針のムシロ状態である。

 危険物を扱う石油業界にとって、この事件は「あすは我が身」の話である。それで思い出すのが、1989年3月にアラスカ沖で起きた大型タンカー「エクソン・バルディーズ」号の座礁事故である。大量の原油が流出、10万羽の海鳥と推定100万頭の海洋動物の命が奪われ、海洋生態系に甚大な打撃をもたらした。事故の原因は、航海士の飲酒。そこで事故後まもなく、エクソンは全世界のグループ主要会社の従業員に対し、抜き打ちアルコール検査を実施。当時、まだ特約店主と昼間から酒を飲むことも仕事のうちとされていた日本のエクソン系元売り会社では大変だったそうである。

 タンカーの航海士も、列車の運転士も人間である。非の打ちどころがないと思われた人が何か失敗をすると、『あの人も人の子だった』と言われるとおり、失敗や過ちを犯すのが人間という生き物なのだ。どれほど完璧なマニュアルを作り、徹底的な教育を施したとしても、今後も今回のJR線のような悲惨な事故は陸海空のどこかで必ず起きるだろう。

 それにしても、あの路線に、カーブで速度を制御できる新型の自動列車停止装置「ATS-P型」とやらが取り付けられていればと思うと悔やんでも悔やみ切れない。この装置の設置費用は地上装置だけで1基約1000万円もかかるため、JR西日本の全路線のわずか6㌫にしか導入されていないそうだ。しかし、今回のような事故を目の当たりにすると、安全性向上のための投資を怠ると、どれほど大きな代償を払うことになるかを思い知らされる。

 従業員の意識改革や教育訓練も大切だが、やはり、安全性向上は機械化・電子化を進めることに尽きる。ガソリンスタンドにおいてもその成果は顕著である。セルフ化に伴って消火設備や防犯設備は格段に強化され、機器類の安全性も向上した。客自身が給油すると事故が多発するという当初の心配も、取り越し苦労だったことは承知の通り。むしろ、フルサービス時代は、従業員が長時間、何十台もの車に給油をしたり誘導をしたりしていたため、注意力が低下しミスやエラーが度々生じていたが、セルフ化によってそれらは皆無に近い状態となった。客自身が給油をし、精算をするということについても、機械化・電子化されたシステム管理によって、安全かつ簡単に行なえるようになっている。

 「セルフは人間味がない」などと評する人たちにわたしは問いたい。たかがガソリンを給油することになぜ人間味が求められるのか。人間味のある店作りとは、実は機械化や合理化の遅れを覆い隠そうとする経営者の詭弁ではないのか。もし、従業員が客の生命を脅かすような失敗をしたとしても、それが「人間味あふれる」うっかりミスなら客は快く許してくれるのか─。

 ガソリンスタンドにとってのセルフ化とは、コストセーブの施策であると同時に、リスクセーブの施策でもあることを声を大にして訴えたい。

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