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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.583『囚人のジレンマ』

オピニオン

2015-11-09

 経済学の一分野に「囚人のジレンマ」という理論がある。ご存知の方もおられるかもしれないが,一応説明するとこういうこと─。

 ある事件に絡んで逮捕された囚人が2人いる。2人は別々の独房に入れられたうえで,それぞれ検察官に“取引”を持ちかけられる。

 「もしお前が仲間を裏切り,犯罪について洗いざらい話したら,お前の罪を軽くして,懲役半年にしてやろう。その場合,裏切られたお前の仲間は罪が重くなって,懲役5年だ。逆にお前がしゃべらずに相手に裏切られた場合は,お前が懲役5年だ。ちなみに,もし2人とも洗いざらい話した場合は,2人とも懲役2年だ」─。

 ちなみに2人の囚人は,このまま黙秘を貫いて証拠を渡さなければ,懲役1年ぐらいで済むだろうということが分かっている。しかし,もし相手が裏切れば,自分は懲役5年になってしまう。結局,2人とも裏切り,仲良く懲役2年の刑を受けてしまう。このように,経済学の世界では,プレーヤー2人が,双方とも多少デメリットのある結果に落ち着いてしまう状況を,「囚人のジレンマ」と呼ぶ。

 ガソリンスタンド業界で延々と繰り広げられている価格競争は,まさにこの「囚人のジレンマ」現象といえる。商圏内のGSが,皆協調して130円でガソリンを販売すれば,すべての店が一定の利益を確保できる。あとは,仕入単価や販管費の抑制を行なったり,価格以外のサービスを企画したりすることによって競争がなされるというわけ。

 しかし,前述の囚人よろしく,自分が130円を維持しているあいだに,相手が125円に価格を下げて,客を奪って行ったらどうしよう,という不安に駆られ自分も125円に下げる。すると,相手はさらに5円下げる。それならと,こちらはさらに…というわけで,GS業界は“囚人”となって,本来享受できるかもしれない利益を犠牲にし,デフレという名の牢獄から抜け出せないままでいる。

 無論,資本主義経済にあっては,プレーヤーが各々の合理的な判断に基づいて,最適な価格で販売することが許されている。しかし,この先もまだまだ拡大してゆくことが見込まれている市場での競争であればともかく,先細ってゆくことが確実な市場で,これまでのように自分の利益のことだけ考えていれば良いのだろうか。2人の囚人が,互いのことを信頼して黙秘を貫いていれば,2人とも1年の禁固刑で済んだわけだが,そうはならないのが悲しい現実である。

 GS業界は,離ればなれにされた囚人たちとは異なり,組合の場で協調を図ることもできるのだが,いまやほとんどのプレーヤーが疑心暗鬼に陥っているため,組合は機能不全となっている。その一つの要因は,元売直営GSの価格戦略だろう。“黙秘”を貫いている忠実な系列販売店から見れば,彼らの仕入価格を下まわるような価格で安売り攻勢をかける直営GSは“元売に裏切られた”との感情を抱かせるかもしれない。「もうガマンできない。それならウチも業転でも何でも買って対抗する」ということになり,「囚人のジレンマ」現象は果てしなく続く。

 聞くところによれば,最近業界を震撼させている「コストコ」GSの価格ポリシーは,商圏内最安値GSより1~2円安くする,ということらしい。つまり,彼らも“隣の囚人”の動向を気にしているのだ。そして,彼らは刑期がどれだけ長引いても,決して主導権を手放そうとはしないだろう。GS業界の中で,裏切ったり,裏切られたりというゲームを続けているうちに,いつの間にかどえらい牢名主が現れたものである。

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