セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.589『安』

GS業界・セルフシステム

2015-12-21

 今年の世相を一字で表す師走恒例の「今年の漢字」が「安」に決まり,京都・清水寺で発表された。日本漢字能力検定協会のキャンペーンとして,全国から公募された中から最も多かったものが選ばれるのだが,「安」保関連法案をめぐり選挙権のない若者たちも巻き込んで世論が沸騰した年,世界で頻発するテロ事件や異常気象など人々を不「安」にさせた年,建築偽装問題やメーカーの不正が発覚して暮らしの「安」全が揺らいだ年,などがその理由だそうだ。いずれにせよ,安心・安全・安定というものが脅かされつつある,否,すでに崩壊し始めていることを感じさせる一年だったということか。

 GS業界にとっても,今年の漢字はふさわしいものといえるのではないか。とにかく,一年半前には100ドルを超えていた原油価格が,いまでは3分の1程度にまで下落する原油「安」。このままの状態が続けば,在庫評価額が大きなウェイトを占める石油元売の決算はかなりヤバイことになるだろう。昨年に引き続き,産油国の協調減産は見送られた。米国はシェール革命によってジャブジャブとなった原油を40年ぶりに輸出する。制裁が解除されたイランの原油も市場にあふれ出る。来年以降も原油価格の低迷は避けられそうにない。

 こうした状況の中で経営を「安」定させるためには,規模を大きくし,贅肉を削るしかないというわけで,再来年の春までには,日本の石油元売は“二強”時代を迎えることとなった。異なる企業風土が融合したその先には何が待ち受けているのか。元売社員や特約店主が,不「安」を抱くとしても無理はない。当該各社に置かれては,合併前に少しでも優位な立場を得ようなどと考えて「安」易な「安」売り量販合戦を展開しないことを切望する。

 「安」売りといえば,今年はコストコ旋風が業界を席巻した。特に,常滑市では地元量販店と採算無視の値下げバトルを展開し,ガソリン価格は一時80円台(税込)にまで下落した。コストコ・常滑店GSオープンの日(11月18日),私は名古屋市内で開催されたCOC・関 匡氏の講演に耳を傾けていたのだが,その話の中でも「コストコ」の恐るべき集客力と価格破壊力についての解説があった。「コストコはGS業者じゃあありません。我々の“常識”なんか通用する相手じゃない。コストコが進出してきたら“あぶら屋の意地”なんか張らずに,コストコの業績不振を祈るほかない」との関氏の言葉に会場は静まり返った。“常滑沖海戦”が勃発したのは,それから数時間後のことだった。

 地元業者の中には,公取が仲裁に入らず,行くところまで行ってくれたほうが良かった,と言う人もいたとか。中途半端な「安」値だと,周辺の業者もそれなりに付き合わなければならず,かえって困るのだ,と。また,別の業者は,市況よりも30~40円も下まわる価格が出て,客から“お前ら,普段はずいぶん儲けているんだな”と言われて心外だった,とも。そんな時は,今年ブレークした,とにかく明るい「安」村のネタで切り替えそう。“「安」心してください,儲かってませんよ”。

 少子化・省エネ化が進行する中で,もはやガソリンを売っているだけでは生き残れないと考える経営者は少なくない。しかし今月14日に,山形県の独立系GSチェーン「コマレオ」が40億円もの負債を抱えて倒産したニュースは,事業の多角化の難しさを改めて感じさせた。GS経営をコアビジネスとして,パチンコ店やホームセンターなどを展開し,ピーク時には153億円(1996年)の売上を上げていたそうだが,「安」泰とは行かなかった。今年も“あの大手が”“あの老舗が”と言われるようなお店が何軒も消えてしまったが,来年もGS業界は,消費低迷と競争激化に苦しむ一年となるだろう。いつになったら平「安」な日々を送ることができることやら…。

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