セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.598『マイナス金利』

政治・経済

2016-03-01

 “マイナス金利”ってなぁに?と訊ねられて“金利がマイナスになるってことだよ”としか答えられない人,案外多いんじゃないだろうか。“えっ!じゃあ,ただでさえ少ない定期預金の利息がなくなって,逆に利息を取られちゃうってこと?”いや,そういうことではなさそうだ。今回のマイナス金利は日本銀行と各金融機関における金利の話であって,我々が利用する銀行の預金利子はがただちにマイナスになるというわけではない。で,それがどのような影響をもたらすかというと,金融機関としては,日銀にカネを預けていると損をする。だから,金融機関は企業へ貸し出して金利収入を得たり,他の投資に回したりすることにもっと熱心になるだろう。人々はカネ遣いが荒くなり,モノをどんどん買うようになるだろう。高利回りの資産を求めて,株も買うようになるだろうし,海外に投資機会を求めることにもなるだろう。それによって円安をもたらせば,景気回復の追い風にもなるだろう─。

 まるで“風が吹けば桶屋が儲かる”みたいな話だが,果たして本当にうまくいくのかしらん。私の周囲に限って言えば,ローン金利が安くなるから車を買い替えようとか,マンション買っちゃおうなんて言っている人は見当たらない。子どもの養育費や老後の生活,はたまた“終活”に備えてコツコツと蓄えている慎ましい人ばかりである。やがて銀行はマイナス金利によるコスト負担を吸収しようとして,自分たちの金利をマイナスにするかもしれないとの不安から,タンスではなく家庭用金庫がとてもよく売れているらしい。また,百貨店の「友の会」が結構な高利回りだということで,入会者が急増しているとか。マイナス金利政策によって,堅実な日本人が突如“爆買い”し始めるなんてことは考えにくい。

 日銀がなりふり構わぬ金融政策を推し進める大きな要因は,石油価格だ。2%の物価目標を掲げて2013年4月から“異次元”の金融緩和を導入したものの,現在の消費者物価指数は原油安の影響で,上昇率がほぼゼロ%の状態になっている。当局者は,「デフレマインド」という,彼らが最も怖れているウイルスが国民生活に再び蔓延してゆくのをどうにかして食い止めようと必死なのだと思う。だったら,その石油価格を上げさせればいいじゃないか。

 民主党政権の時代に,ガソリンの平均価格が3ヶ月連続して160円を超えたら,1ℓあたり25・1円の暫定税率分の課税を停止し,逆に停止後3ヶ月連続で130円を下回ったら,課税停止を解除するという「トリガー条項」なるものが設けられたが,一度も発動されることなく今日に至っている。石油価格の下落が日本経済に悪影響を及ぼすというのであれば,一定水準よりもガソリン価格が下まわったら,「デフレ予防税」とかなんとか言って税金を上乗せするような“逆トリガー条項”を課してはどうだろうか。そうすれば,常軌を逸した安売りをする業者はいなくなるだろう。

 実際,いまGS業界はデフレスパイラルの真っ只中にある。ガソリンを安く売っても,販売量がぐーんと伸びたわけではない。売上額が前年同月を上回ったGSは全国にどれぐらいあるだろうか。自動車ローン金利がゼロになったとしても,ガソリンを喰うデカイ車に乗り換える人などほとんどいない。「キャディラック」や「マスタング」のフォード社は日本からの撤退を決めた。少子化の影響を見越してか,マツダがミニバン市場から撤退するとのニュースも報じられている。これからもガソリンの市場は縮小し続けるだろう。一刻も早く市場を安定させることが必要だ。ガソリンを安売りすることが,消費者にとっては喜ばれても,国民には悪い影響を及ぼしているというジレンマ。GS業界に,自分たちでこのジレンマから抜け出す勇気も力も無いとすれば,業を煮やしたお上に無理やり値上げさせられるかもしれない。

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