セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.599『予見』

政治・経済

2016-03-08

 『三日先の事を見ることができる人は,幾千年も金持ちでいられる』という中国のことわざがある。将来を─それがわずか三日先のことであったとしても─予見することができれば,自分の利益になるように備えたり行動することができる。その最たるものが金融商品の売り買いだろう。人々は,少しでも信頼性の高い情報を求めて,有識者や政府要人の言葉に耳を傾け,新聞や雑誌を読み漁り,果ては街角での噂話にまで聞き耳を立て,「三日先」に起きる出来事を知ろうとしている。だが,21世紀のいまも,人間ができることはせいぜい明日の天気を予想する程度で,それも100㌫正確というわけではない。

 莫大なマネーが動く原油市場もまた,富を求める人々の様々な思惑がうごめく世界である。過去3年間ほど1バレル100㌦前後で推移していた原油価格は,いまや30㌦台にまで下落し,我々GS業者は100円を切るような小売価格でガソリンを販売している。それでも,ガソリンの需要が上昇する兆しはなく,今後も年率1.8~2㌫の割合で減少して行くと見られている。しかし,これも「予測,見通し」である。ガソリン需要が劇的に増加する何らかの出来事が起きるかもしれない。

 現在の原油価格の主要因そのものが,人々の「予測,見通し」によるものなのだそうだ。OPECの減産見送り,中国経済の成長鈍化,米国FRBの利上げ観測など様々な“雲の動き”を見て,「石油は相当余って値崩れを起こすんじゃなかろうか」と予測した投資家たちの思惑が,いまの価格水準を作り出しているのだ。エコノミストという名の現代の予言者たちの中には,10㌦台まで下がるという悲観論者もいれば,サウジアラビアで政変が起きて250㌦まで上がると予言する者までいる始末で,天気予報に例えれば,あしたコートを着て行くべきか,Tシャツ一枚で出かけるべきか分からない,という状況なのだ。

 では,原油価格が上がったほうが良いのか,さらに下がったほうが良いのかというと,大方の意見はやはり上がったほうが良いということだ。現在,米国の原油在庫は86年ぶりの高水準とのことで,その要因は技術革新によって掘り出された「シェールオイル」。ところが,これまでは比較的掘りやすい場所で行なわれてい掘削作業が,段々コストのかかる場所に移りつつあるそうで,すでに採算が合わず倒産した掘削業者は百社を超えているそうな。しかも,シェール企業が資金調達のために発行した債券は「ジャンク債」と呼ばれる投機性の強い債券で,その利息,総額12億㌦(約1,400億円)を今月末に支払わなければならないのだ。もし,これが支払えずに,シェール関連債券が文字通り“ジャンク”になった時には─そう,あの「リーマンショック」の再来ともいえる金融バブルの崩壊が起こる危険性があるのだ。

 とはいえ,これも「予測・見通し」の域を出ることはできない。不安を散々あおって,安い時期に買い込んだ原油の価格を吊り上げて売り抜けようという,抜け目の無い投資家たちの企みかもしれない。結局,三日後どころか,明日のことさえ確かなことは分からないのだ。キリストは,有名な「山上の垂訓」の中で,『次の日のことを決して思い煩ってはなりません。次の日には次の日の思い煩いがあるのです。一日の悪いことはその日だけで十分です』と諭しているが,まさに金言といえる。

 5年前の3月11日に,あのような大災厄が東北地方を襲うことを,もし前日にでも知りえたなら,あれほどの犠牲者を出すこともなかったであろう。今年も,人類にその限界を思い起こさせ,謙虚にさせる記念日がやってきた。

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