セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.604『いくら下げても売れないよ』

GS業界・セルフシステム

2016-04-12

 大手牛丼チェーン「吉野家」が,今月6日から,4年半ぶりに「豚丼」を復活させた。価格は,牛丼並盛りより50円安い330円。おととし,牛丼を値上げしたが,「12ヶ月以上たってもお客が戻りきっていない。力強く消費が増えているかというと,当社においてそこまでの実感はない」(「吉野家」鵜澤武雄企画本部長)とのことで,今回の豚丼再開となった。ツィッターでは「豚丼は“デフレ丼”なのかな?」などとつぶやかれていて,やはりデフレ脱却を目指す政府の景気政策の行き詰まりを反映しているとの見方が専らだ。いまの政権が,いくら税収がこんなに伸びたとか,雇用がこれだけ改善されたなどとうたっても,庶民には好景気の実感は乏しく,消費税が今後10㌫になることへの警戒感も手伝って,生活防衛のための倹約指向はいや増すばかりだ。

 そのマインドの影響をまともに受けているのがGS業界。昨年のいまごろと比べると,ガソリンの仕入れ価格は20円以上安くなっているが,“10円分は売値を下げて,10円分は儲けよう”なんてバランス感覚はまったく働いていない。下がった分すべてを気前よく値下げした挙句に,勢い余って採算割れ価格にまで突入しちゃうGSが全国各地に存在している。それもやはり“売れないから”なのだろう。だが,いくら下げても販売量は回復しないだろう。GS業界には暗澹たる未来が待ち受けているからだ。

 日本自動車工業会が今月8日に発表した乗用車市場動向調査によれば,車を保有していない10~20代の社会人のうち,購入の意向がない層が59%に上ったとのことだ。理由は「買わなくても生活できる」のほか,「駐車場代などお金がかかる」,「お金はクルマ以外に使いたい」などの経済的な回答が多かった。そのうえで,これから増やしていきたいものとしては「貯蓄」が50㌫を占めて最多となり,若年層の堅実志向が改めて浮き彫りになった。

 たとえば「吉野家」は,豚丼を復活させたり,低価格メニューを改善することにより,業績を回復させることができるかもしれない。また,TPPで関税率の引き下げが大きい牛肉関連の外食産業は,この先ものすごい激安戦争を繰り広げ,消費者を再び店に呼び戻すことができるかもしれない。外食産業にはまだ挽回する可能性がある。なぜなら「人間は食事を取らないと生きてゆけない」という絶対的な法則が存在するからだ。しかし,自動車が無くても,人間は生きてゆける。しかも,次代の担い手である若者たちがそういう思考をどんどん強めているということは,ほとんどお先真っ暗な状況とも言える。

 しかも,現在日本で売れている自動車の上位10車種の大半がハイブリッド車か軽自動車である。「プリウス」の開発時のエピソードでこんな話がある。開発スタッフは燃費が倍になるのなら,ガソリンタンクを半分にすれば室内が広くなるし,車重も軽くなると考えていた。その案をプロジェクト責任者に提示すると,彼はこう叱責した。「バカもん,ダメだ。お客さんが何を喜ぶと思ってるんだ」「リッター何㌔走るってことじゃないですか?」「そうじゃない。ガソリンスタンドに行くインターバルが伸びることで燃費の良さを実感するんだ。そんなこともわからんのか。タンクを小さくなんてことは絶対にやっちゃいかん!」─。

 実際,「プリウス」を発売してから集まってくるユーザーの声の中に,「今まで二週間に一度の給油だったのが,一カ月に一度になりました」という感想が多くあったという。こんな賢い人たちがいまの自動車を作っているのだから,ガソリンは幾ら安くしても売れないだろう。そうした現実に逆らって,いまだ“安く売ればお客は増える。安く売れば勝ち残れる。安く売ればいつの日か…”と信じて価格競争を繰り広げている元売販社やPB量販チェーンやカテゴリーキラーたち。みなさんには,お笑いコンビ「コロコロチキチキペッパーズ」の決めゼリフを送りたい。『完全にイッちゃってるぅ!』─。

コラム一覧へ戻る

ページトップへ