セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.607『軽自動車は何が軽い?』

社会・国際

2016-05-10

 三菱自動車は4月20日,燃費試験のデータについて,燃費を実際よりもよく見せるために社内で不正な操作があったことを発表した。走行試験で得た「走行抵抗値(走行時のタイヤなどの転がり抵抗や空気抵抗)」のうち,小さい数字を意図的に国土交通省に提出し,燃費や排ガスを計測しており,カタログ上の燃費が5~10%水増しされたという。不正が明らかになったのは,三菱自動車の「eKワゴン」と「eKスペース」,日産自動車に供給している「デイズ」と「デイズルークス」の4車種。いずれも両社の軽自動車の主力車種で,これまでに累計62万5千台が販売されている。

 三菱自動車は,2000年と2004年にリコール隠しが発覚し,2002年に山口県と横浜市で起きた大型車の死亡事故では,欠陥を組織的に隠し,国に虚偽の説明をしたことが判明,元社長らが有罪判決を受けた。経営危機に陥り倒産寸前となった同社は,重工,銀行,商事の“三菱御三家”の支援によって再生の道を歩んできたが,今回の不祥事でさらに衝撃的な事実が明らかに。何と,三菱自動車は,国内法規で定められた方式と異なる試験方法での計測を1991年からずっとやっていたと白状,販売店などからは“今度こそ潰れるかも”と不安の声が挙がっている。

 不正の背景には,軽自動車の低燃費競争があるとの見方が強い。「eKワゴン」と「デイズ」の開発で当初掲げた燃費の目標は,26.4km/㍑だったが,その後5度に渡って目標が引き上げられ,最終的に29.2km/㍑にまで引き上げられたという。目標達成のプレッシャーが引き起こした不正─これまでに何度見聞きしたことであろう。「三菱」の名を冠していながら,いや,むしろ冠していたがゆえに,面子を重んじて不正に手を染めたとすれば,あまりにも愚かである。

 軽自動車繋がりで,もうひとつ気に掛かった出来事は,今月4日に島根県の県道で高さ30㍍ほどの斜面から落ちてきた直径約1㍍の岩が走ってきた軽自動車の天井を直撃,助手席に乗っていた女子大生が亡くなった。果たして普通自動車だったらどうだったかはわからない。最近の軽自動車の車体には「高張力鋼板」という,強度を保ちながら軽量化を実現するという画期的な素材が使用されているそうで,単独事故における死亡率は4.4~5㌫で,普通車と変わりない。しかし,相互事故となると普通車0.19に対して軽自動車は0.22と高くなっている。(「交通事故総合分析センター」の2013年度データに基づく)

 軽自動車は普通車よりも軽く小さい。大きく重い普通車と衝突すると軽自動車のほうが死亡率が高くなるのは当然だ。ただし,軽自動車の強度は年々上がってきており,死亡事故件数は単独・相互共に減少傾向にある。実際,近年出た軽自動車のカタログには,以前よりも強度をアピールする項目が増えているそうだ。高燃費や広い空間を謳うよりも,そっちの方に開発資源を投じるほうが大切であることは言うまでもない。しかし,もし強度データさえもが改ざんされているとしたら…ガソリン代返せどころの騒ぎではない。

 太平洋戦争中,日本海軍の主力戦闘機だったゼロ戦は,高い運動性能と長い航続距離を誇り,連合軍パイロットたちから怖れられた。しかし,そのスペックを支えていたのは,ジュラルミンで出来た軽くて薄い機体である。翼には多くの肉抜き穴が空けられ,極限まで軽量化が図られた。つまり,世界最軽量の機体と大和魂を注入されたパイロットによって,“弾に当たらない戦闘機”を追求したわけだが,ひとたび被弾するとゼロ戦はすぐに火だるまとなった。防弾タンクや自動消火器が取り付けられたころには,熟練パイロットたちはほとんど戦死していた。そのゼロ戦を開発したのは“三菱”重工業。軽薄短小は今日まで,日本の製造業のお家芸と言える分野だが,くれぐれもゼロ戦の悲劇を繰り返さないようお願いしたい。

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