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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.619『優生学』

社会・国際

2016-08-02

 7月26日未明,相模原市の障害者福祉施設に男が刃物を持って侵入し,入居者ら45人が刺される事件が発生した。被害者のうち19人が死亡,26人が重軽傷を負うという戦後最悪レベルの凶悪犯罪に,国内のみならず世界中に衝撃が走っている。容疑者は施設の元職員である26歳の男。事件直後は,解雇による逆恨みが動機かに思われたが,その後,男が今年2月に「妄想性障害により他人を傷つける恐れがある」と診断されて緊急措置入院していたことや,「障害者を抹殺する」と記した手紙を衆院議長に渡そうとしていた事などが明らかとなり,障害者に対する差別や偏見が凶行の動機となった可能性があると報じられている。男は措置入院中だった2月20日に,病院の担当者に「ヒトラーの思想が二週間前に降りてきた」と話していたという。

 1934年にドイツの全権を握ったヒトラー率いるナチスは,「遺伝病子孫予防法」をつくる。障害者たちが子孫を残さぬよう不妊手術を強いる,いわゆる断種法だ。第二次世界大戦が始まると,ヒトラーは次のステップに踏み切る。障害者本人を安楽死の名の下に抹殺する「T4計画」である。シャワー室に見せかけた密室に裸の患者を押し込み,毒ガスを放出する大量殺人の手法は,この計画で開発された。やがてこの技術は,ヨーロッパ全土のユダヤ人に対して“活用”されることになる。しかし,この選別の思想は,ヒトラーの独創だったわけではない。

 1859年にダーウィンが「種の起源」を出版して以降,人種間にも優勝劣敗が存在するとの思想が広がり,その中から,「劣った遺伝形質」を持つ人間を,出産制限などで減らすべきだと考える「優生学」と称する“科学”が生まれた。提唱者は,ダーウィンのいとこにあたる,フランシス・ゴールトンという人類学者。二十世紀初頭,優生学は流行し,米国各州や,北欧各国が,精神障害者らに不妊化を施す断種法を制定した。しかし,後発国であったドイツにおいて,その論理があまりに恐ろしい“成果”をもたらしたのを見て,世界の優生学は一気に下火になった。ヒトラーは,優生学のはらむ狂気に警告を発した最大の「反面教師」だったといえる。

 相模原市の事件において男を凶行に至らしめたものが,この世に「生きるに値しない生命」が存在し,それらの人々を抹殺することは,「社会の健全化」のために必要だと主張したヒトラーの論理であったとすれば,これはもう本当に恐ろしいことだ。ヒトラーは死の数日前,秘書たちに向かって,「ナチズムは私と共に滅びる。しかし,百年もすれば新しいナチズムがよみがえるだろう」と“予言”したという。折りしも欧米では,十年ほど前なら大衆から唾棄されたであろう人種や民族に対する過激な発言が,一定の支持や理解を得るような状態となっている。日本でも,ヘイトスピーチが法律で規制しなければならないほど過激化している。弱者やマイノリティに対する残虐な攻撃が,いつまたどこで起きるか分からない不穏な空気を感じるのは私だけだろうか。

 優秀な者だけが生き残り,劣った者は駆逐される─。人道的には許されざるこの考えを,会社経営においては,大半の人がを正論として疑うことなく受け入れている。果たして本当にそれでいいのだろうか。会社も人間と同じで,生まれたときからハンディを負っているものや,環境や時代の変化の中で,病んだり,衰えたりしてゆくものもいる。過去十年以上に渡り,年千ヶ所ペースで減り続けてきたGS業界は,さしずめ「劣等業種」というべきか。しかも,業界内では,いまだに数量を誇り,数量で見下す風潮がまかり通っている。元売は特約店を“選別”し,弱ったものを助けることはしないし,量販チェーン店は,自分たちが最強民族であることを誇示するかのように,地域の市況を暴力的な価格で破壊している。縮小してゆく市場の中で,自分だけが生き残れればよいという“優生学的”経営哲学に基づいて行動するなら,結局,業界の滅亡を早め,自らの滅亡も早めてゆくのではないか。それともやはり,弱者への思いやりや気遣いなどという人間的な感情は,GS業界には無用のものなのだろうか。

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