セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.629『事後調整は死語となるか』

政治・経済

2016-10-11

 11日に発売された,「週刊エコノミスト」(10月18日号)の特集記事は「さまよう石油再編・官僚たちの晩秋」。「エネルギー供給構造高度化法」を制定し,石油元売に設備削減目標を課すことで,先細りする国内市場への対応を強力に迫り,今回の「二強体制」の道筋を整え,「官」の力を久々に見せ付けたかのように見えるが,実際は企業の思惑も絡んで政治の介入を許し,思い描いたとおりに再編を進めたとは言えず,もはや「官僚たちの夏」は盛りを過ぎてしまったと論じている。

 まあ,週刊誌が面白おかしく書いていることだから,どこまで本当かわからないけれど,興味深かったのは次のエピソード。ロイヤル・ダッチ・シェルの日本撤退が明らかになった2013年,シェル幹部が資源エネルギー庁を訪れ,経産省が望む昭和シェル株の売却先について,「東燃か出光か」と尋ねたところ,「出光」との返答を得たという。というのは,このころすでに,経産省内には,JXと東燃ゼネラルを統合させたいという意向があったらしい。その最大の理由は,事後調整を認めていない東燃と統合させることで,「事後調整が横行しているJX系列の商慣習」を是正できるから,というものだった─。

 もし記事どおりだとすれば,経産省は,石油業界が疲弊している病巣が,事後調整を当てにした採算無視の価格競争にあることを認識しており,今回の再編でこれをやめさせようとしていることになる。事後調整によって卸価格が下がるのだから,元売の収支は当然悪化する。昨今の原油価格の低迷で,在庫評価額が目減りしている元売にとって,事後調整は経営を悪化させる以外の何ものでもない。それでも,販売店がシェア争いに負けて次々につぶれ,ガソリンの販売先が減少し,結果的に製油所の稼働率が落ちるよりはましなのだ。何より,製油所閉鎖という大規模なリストラにつながるリスクを回避できる。

 事後調整は系列店をコントロールするための唯一無二の手段でもある。言うことを聞かなければ事後調整の蛇口を絞る。系列店々主の仕事は,元売支店長をもてなして,少しでも多くの事後調整を分捕ってくる事と言っても過言ではない。さらに,元売が最も喜ぶ“量”を捌くために“建値”を下まわる価格で販売する。「利益は後からついてくる」と言わんばかりに…。

 ウチは事後調整は一切していません,という元売も,「事前」調整とも言える手法を使って系列店を従わせようとする。“このキャンペーンに参加すれば1キロ㍑あたりこれこれのインセンティブを出します”という具合だ。

 まあ,頑張ったらそれに見合った果実を得ることは何も悪いことではない。問題は,採算を無視して量販することだ。減販時代に突入して久しいというのに,いまもなおこの商習慣から脱却できないでいることを,経産省は問題視しているのだろう。石油業界が自力でこの“依存症”を克服できないのであれば,ボロボロになってしまう一歩手前で,強制的措置を施そうということか。業界人としては情けない気もするが,ここは官僚の皆さんにまなじり決して取り組んでもらいたいものだ。

 しかし,「エコノミスト」誌の記事によれば,JXと東燃の統合により,堺と和歌山の製油所のいずれかを廃止する必要があるのだが,和歌山は経産相も務めた自民党・二階幹事長の地元で,雇用確保のため存続を求められているとの噂が業界ではささやかれているそうだ。そんなこんなで合理化がなし崩しとなれば,やはりタイトルどおり「官僚たちの晩秋」となってしまうかもしれない。まあ,いまだ事後調整頼みのGS経営者は結構いらっしゃるだろうから,「事後」調整が「死語」となってしまうような業界再編には反対する人の方が多いのではないかと思っていただけに,出光の販売店会が合併推進を決議したというのは驚きだった。

コラム一覧へ戻る

ページトップへ