セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.634『ベスプラ』

GS業界・セルフシステム

2016-11-14

 東京商工リサーチによると,PBスタンドチェーン,「ベストプライス」を運営するアルフレックスが10月18日,整理回収機構(RCC)から京都地裁に破産を申し立てられ,同日,保全管理命令を受けた。負債総額は約159億円。同社は,2000年に設立され,安売りガソリンチェーンを全国展開させたが,リーマン・ショック以降,財務内容が悪化し,2014年にはRCCが社有不動産に対し仮差し押さえを申し立てたことから経営不振が表面化した。昨年11月には資産隠し,強制執行妨害などで経営陣数名が逮捕されるという事態となり,混乱の末,今回の事態を招いたとのことである。なお,現在11ヶ所ある直営店は,保全管財人の管理下で営業を続けており,営業継続と雇用確保のためスポンサー企業を探している。

 「ベスプラ」が業界にその名を轟かせていたのは,いまから10年ほど前だっただろうか。閉鎖されていたGSを次々に買収し,瞬く間に二十数ヶ所まで展開していった。セルフ化することもなく,いわゆる「セミセルフ」方式での運営。営業時間は7時か8時に開店し,21時か22時に閉店。周辺GSより10円ぐらい安い価格を掲出して量販,ちなみに滋賀県の1号店は月間で1,000㌔とも1,200㌔とも言われていた。油外商品については,TBA商品(オイル,タイヤ,バッテリー)をこれまた激安で売るというスタイルで,洗車機は置かず,車検もやらなかった。

 セルフスタンドがどんどん増えてゆくさなかに“そんなものにカネをかけんでもエエ”とばかりに,看板だけ架け替えて即営業。パート,アルバイトが大半を占めるGSクルーの人時生産性をとことんまで追求する,“原点回帰”とも言うべきオペレーションは,業界に衝撃をもたらした。11月14日現在,「ベスプラ」のホームページはまだ運営中で,それによれば,まだ18店舗が営業中ということになっており,東海地区には,愛知県新城市と三重県伊勢市に1店舗づつ存在している。

 そう言えば,今年の9月に伊勢市の店舗では,地下タンクの配管に亀裂が生じたことで,ガソリンに水分が混入,補修工事のために休業したものの,先月には営業再開したと報道されていた。今月に入ってからもレギュラー112円で販売中(ウェブサイト「gogo.gs」で確認)とのことで,まだまだ“ヤル気”満々だなと思っていたのだが…。

 業界人の多くは,「ベスプラ」の破綻を,安値量販の蹉跌と結びつけるだろうが,報道記事を読む限りでは,ことはそれほど単純なものではないようだ。難しいことはようわからん。ただ,投資ファンドやデベロッパーが運営するGSチェーンは全国に幾つもあり,その多くが安値量販により急速に店舗網を拡げている。彼らにとってのGS経営とは,不動産投資の一環であったり,手っ取り早く現金をかき集めるための手段なのかもしれない。地場の零細GS経営者とは感覚もスケールも違う。とても太刀打ちできるような相手ではない。

 「ベスプラ」は現在,新たなスポンサーを探しているそうだから,これまた丸ごと買い取ってしまう企業体が現れる可能性もある。そうなれば,恐らく,新たな運営者は,輪をかけた安売り攻勢を仕掛けてくるのではなかろうか。ヒトラーの支配から解放されたと思ったら,今度はスターリンが君主としてやってきたという東欧諸国のように,地場のGSにとっては新たな苦難が続くことになるかもしれない。もううんざりだ。

 ガソリンはこの先ますます売れなくなる。次々に出店し,店舗を担保に資金を調達し,量販で得たキャッシュを回しながら走り続けるというビジネスモデルはもはや限界にきていると思う。しかし,そうとは気付きつつも,会社が大きければ大きいほど,方向転換するのは容易ではない。スーパータンカーと同じだ。これからますます航行の難しい海域を進んでゆこうとしているGS経営者は“全速前進”だけでは乗り切れないことを,とりわけ大型船の船長は肝に銘じておかねばなるまい。ちなみに,江戸時代より日本の航海用語では,直進は「ようそろ」,右は「おもかじ」,左は「とりかじ」と呼んでいるが,バックに相当する用語はなく,「後進」なのだとか。むかしの日本の船乗りは,後ろに下がるという概念を持っていなかったようだ。

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