セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.66『小倉昌男氏を悼む』

オピニオン

2005-07-04

 ヤマト運輸の元社長、「宅急便」の生みの親、小倉昌男氏が、先月30日に80年の生涯を閉じた。新聞やテレビでの訃報の扱いがあまりにも小さかったのでとても驚いた。金融コンサルタント木村剛氏は、小倉氏の死を「国家の損失」と述べている。彼が日本の流通システムのみならず、日本人の生活様式そのものにもたらした変革はとてつもなく大きい。小倉氏率いる「クロネコヤマト」の存在がなければ、現在の郵政民営化論議も生じ得なかっただろう。実際、小倉氏はかつて「年賀状をわが社でやらせてもらえるなら、1枚20円で配達してみせる」と豪語していたという。

 小倉氏の半生は規制との戦いだった。倒産寸前だったヤマト運輸の生き残りをかけて宅配便を始めたのが76年。当初は免許がいらない軽自動車で営業したが、80年にトラック輸送での路線免許を申請した。しかし運輸省は認めず、86年に行政訴訟を提起。この時、郵便小包は年間1億5000万個だったのに対し、宅配便は1億9000万個に達していたが(いまでは10億個を超えている)免許は出なかったという。その後もクレジットカードの配達で郵政省(現総務省)と「信書か否か」で対立するなど、徹底して官の規制に抵抗し続けた。

 

 「小学生も5年生ぐらいになると、うちの配送センターなどを見学してくれる。そこで物流の仕組みを説明すると、子どもたちはちゃんと理解してくれる。運輸省の役人は小学5年生以下だ」と言い放ち、不合理な運輸業界と、それを許認可権をもって保護しようとする官界・政界と真っ向から戦い続けた小倉氏は、まさに「ミスター規制緩和」と呼ぶにふさわしい人だった。

 ガソリンスタンドにセルフ給油方式が認められたのは、いまから7年前のことだが、これを規制緩和の賜物と見るのはいかがなものか。そもそも改正前の消防法の13条3項には、給油所などでの危険物の取り扱いについて、「危険物取扱者以外の者は、危険物取扱者が立ち会わなければ、危険物を取り扱ってはならない」と規定しているだけで、「資格がない者でも、有資格者が監視さえしていれば、だれでも給油できる」と読める条文だったのだ。この「危険物取扱者以外の者」の定義について、当時、消防庁自身が監修していた「消防法解説」の中にも、「(給油所などに)勤務する者だけでなく、そこで危険物を取り扱うすべての者」との判断が示されており、どこにもドライバーはだめとは書いてなかったのである。結局、98年4月から改正された消防法は、規制緩和でもなんでもなく、むしろ、それまでも違法性のなかったセルフ給油を正式に認可したに過ぎない。それだけなら良いのだが、この改正に乗じて、消防庁は計量機や消火設備に新たな規準を設けるなど、事実上の規制強化を行なったのである。

 例えば、改正された消防法では、泡消火剤の入った固定タンクを新たに設置し、その消火剤を各アイランドの両側に取り付けられているノズルから噴射する装置が、セルフスタンドに義務付けられている。検収テストに何度も立ち会った感想を率直に述べれば、あれで本当に火を消し止められるかどうか疑問なのだが(というよりもあれが実際に使用されたという話を聴いたことがないのだが)、標準的なスタンドで、機器・工事費を含め100万から120万円もの出費が必要となるのだ。計量機にも、ノズルやホース、制御基盤などを消防法の規定に沿って改造しなければならず、結局、改造費を払うぐらいならということで、一台150万円もする新品を購入することになってしまう。こうした投資コストが、ガソリンスタンドのセルフ化を阻み、元売り子会社や大手販売店による寡占化をもたらし、業界のダイナミズムを削いでしまっている。

 「時代の流れというものを知らない霞が関の住人を哀れだと思いますし、頭悪いと思う。閉鎖社会だから、世の中が見えないんだね。民間なんて金もうけのために何やるかわからんゾ、という前提でやってるんだけども、もうそういう時代じゃない。消費者は非常に賢くなっていて、運輸省よりも賢い。だから賢い人が目を光らしていれば、なにも賢くない運輸省が目を光らせなくていいわけです」─。クロネコが残した足跡は、セルフスタンドが更なる発展を遂げるための路程標であると思う。

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