和田 信治
GS業界・セルフシステム
2019-07-22
7月18日に京都アニメーションの第1スタジオが放火され,22日現在 従業員34人が死亡,34人が重軽傷を負う大惨事となった。多くの作画や資料も焼失してしまい,世界中のアニメファンからはアニメ界の“ノートルダム大聖堂”が失われてしまったと,悲痛な叫びが挙がっているという。
今回の事件がアニメ界にどのような影響を及ぼすのか,などということはこの際どうでもいい。問題は,防火基準を満たし,消火設備も整っていた建物において,34人もの人命が奪われてしまったことだ。その破壊的な“凶器”となったのがガソリンだったことは,GS業界人にとって何ともやるせないことだ。
犯人は京アニスタジオから6㌔ほど離れたホームセンターで,携行缶を2個,それを運ぶ台車,点火棒「チャッカマン」を購入していた。こうした無差別殺傷事件が起きるたびにその凶器の出どころを調べると,犯人は「ホームセンターで買った」と答えるケースが多い。今回も犯行に必要な道具一式をホームセンターで調達した訳だが,店側に落ち度はない。
そして,犯行30分前にGSに台車を押して来店し,「発電機に使う」と言って,ガソリン40㍑を購入して行ったという。GSはセルフスタンドだったが,スタッフが用途を確認して給油しているので,こちらも落ち度はない。ただ,今回の事件を受けて,ツィッターにこんな投稿があった。
『実家は昔ガソリンスタンドしてたんだけど,父がお昼ご飯食べる間店番する私に「ガソリンを歩いて買いに来る人は確実に不審人物だから,来たらすぐ言いに来なさい。お前が売ったら絶対ダメ」って言われた。ちゃんと理由があるなと,こんな事件があったら思う』
『高校生の頃ガス欠したのでバイクを置き去りにしてスタンドに行き「ガソリン1㍑だけ売ってください」と言ったら店員に「何処でガス欠したの?どんなバイク?」等々色々聞かれた。ガソリン1㍑買うのがこんなにも面倒臭いのか!と思ったが今思うとあの店員の対応は正しい』
確かに,私の店にも携行缶でガソリンを買いに来る客がいるが,そのほとんどが軽トラックの荷台に積んでくるおじいちゃんだ。台車に乗せてやって来るような客にいまだ遭遇したことはない。もし,そんなやつが来店したら,販売を断ったうえですぐに警察に通報したほうがいい。
すでに,携行缶などへのガソリン給油には,身分証の提示を求めるよう法制化すべきではないか,いや,いっそのこと販売禁止とすべきではないかなどの意見がネット上で交わされている。ただ,自動車からガソリンを抜き取るポンプは数百円で購入できるので,GSでの規制強化だけでは不十分だろう。
今回の事件で,ガソリン40㍑(実際に使用されたのは10~15㍑),金額にして五千円程度で大量殺戮が可能となるという事実を深刻に受け止めねばなるまい。この類のものを「貧者の兵器」と呼ぶらしい。安価で容易に入手できるが,ひとたび悪用すると高い殺傷能力を持つ。ホームセンターには,そのような“兵器”が溢れている。 東京オリンピックまであと1年。テロ対策は加速度的に強化されてゆくだろう。ガソリン販売にもいろいろと規制が設けられるかもしれない。ホームセンターで文化包丁を買うにも身分証を提示しなければならないかも。テロは私たちの身近な出来事になりつつある。
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