セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.79『POSは必要か』

GS業界・セルフシステム

2005-10-10

 ずいぶん前にラジオで聞いた話─。あるバーでの事、ほろ酔い気分の男性客がバーテンダーをつかまえて、ひとくさり酒に関するウンチクを語りはじめた。やれ、何年物の何それは、コクがあるだの、クセがあるだの、何だのかんだのとしゃべり続ける客に、他の客はいささかウンザリ。

 「ところでマスター、アンタの家には何種類ぐらい酒が置いてあるの?」─えらそうな態度で男がそう尋ねると、それまで黙って話を聴いていたバーテンダーはぼそっと一言、「三種類です」。“エッ”と怪訝そうな顔をする男に向かってさらに一言、「ビールと、日本酒と、ウイスキーです」─。他の客は心の中で喝采を送りながら、グラスをぐっと飲み干した。

 ガソリンスタンドも、要は「ガソリンと、軽油と、灯油」を売っているだけのことである。そんなに難しい商売じゃあない。もちろん、ピザやパスタを出すバーがあるように、オイルや洗車がメニューに含まれる場合もある。それが結構評判が良くて、それを目当てに来る客がいたりもする。(わたしの家の近所にも、とても美味しいテール・カレーを出すバーがある)とはいえ、基本はやはり「三種類」しかないのである。

 ところが、ガソリンスタンドの経営者の多くは、やれ来店頻度がどうだの、購買履歴がどうだのと、やたら小難しい理屈をこねくり回すのだ。セルフの時代になっても、この風潮は変わらない。いや、ますます熱心になされていると言っても良いだろう。彼らをそのように駆り立てる背後には、あるシステムの存在がある。POSである。

 POSとは、販売時点 (Point-Of-Sale) 情報管理システムの略称で、スーパーやコンビニなどでは、各店舗のPOS端末とホスト-コンピューターを結び、売上や在庫の管理を自動的に行なうことによって絶大な力を発揮してきた。イトーヨーカドーの鈴木敏文CEOは、かつて「売り場を回らなくても、POSのデータを見れば、その店がどんな状態になっているかが手に取るように分かる」と言い切るほどだった。

 ガソリンスタンドは、比較的早い時期にPOSが導入された業種の一つである。にもかかわらず、いまだに端末機は、日計精算をするのに用いられる程度で、そこで吸収されたデータが効果的に利用され、日々の売上に貢献したという話はあまり聞いた事がない。油種別、時間帯別、購入額別などに顧客を分類し、さて、それをもとに何をするのかと言えば、大抵は「ふ~ん、そうだったのか…」と言うだけで、具体的な販売活動には結びつかない。購買履歴などを記録させておき、次に来店した時の声かけに生かそうとの試みも、成功事例はそれほど多くはない。それもそのはず、本来ガソリンスタンドでは、そんなややこしいデータ分析などする必要がないのだ。所詮、売っているのは「三種類」だけなのだから─。

 しかし、POSの呪縛から逃れられない多くのスタンド経営者は、セルフ化にともない、従来の情報管理機能を削除して、精算機能のみの簡易型POSを導入するという私の提案に対し、不安を隠そうとしない。「本当にこれで大丈夫なんですか?」「大丈夫ですよ、要は毎日、毎月の販売数量と売上金額が分かればいいんじゃないですか?」「それはまあそうですけれど…」という調子だ。

 たかがガソリンスタンド、それも、価格の安さに惹かれてやってくる客が、勝手に自分で給油してゆくセルフスタンドではないか。高価なシステムを導入して、ああでもないこうでもないと分析する必要性が本当にあるのかよく吟味してみるべきだろう。

 しかし、販売の現場ではそうであっても、はるか後方のオフィスの一角では、POS端末を通して日々刻々と集められる油と金の流れを注意深く調べている者がいるのも確かである。そう、元売である。この話はまたの機会に─。

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