和田 信治
GS業界・セルフシステム
2005-10-17
「デカケルトキハ、ワスレズニ」─おなじみ(もう古いか)、アメリカン・エキスプレスのコマーシャルである。しかし、最近ではカードだけでなく、「暗証番号も忘れずに」出かけなければならない時代となった。ホテルや飲食店などで清算時にクレジットカードを使おうとすると、電卓ぐらいの大きさの端末機が出てきて、「ここに暗証番号を入力してください」と指示される。キャッシングに利用しない限り、クレジットカードの暗証番号なんか、登録した事さえ忘れてしまっているほどだから、最初に言われたときは困った。(その旨説明したら「サインだけで結構です」と言われたが)
今後、カード会社はセキュリティ強化のために、サイン方式は廃止し、暗証番号方式に変更してゆく方針だそうである。ところで、もしあなたが誰かのクレジットカードを拾ったとして、それを良心の声に逆らって使用しようとするなら、セルフスタンドへ行くかもしれない。特に、アイランド清算方式のセルフスタンドでは、カードを挿入して給油をすればレシートが出てきて、それでおしまい。本人確認のためのチェック機能は何もない。そりゃあ、カードを落としたり、盗まれたりした人が悪いと言えばそれまでだが、せめて、暗証番号を入力・確認する機能がPOSに内蔵されていれば、不正利用を水際で防ぐ事ができる。このままでは、早晩元売はカード会社からセキュリティ強化を迫られることになるだろう。しかし、それは莫大なシステム開発費と改造費を必要とし、そのしわ寄せは系列店にも及ぶことになるだろう。
時々、セルフへの改造を考えておられる方から、「和田さん、セルフにクレジット機能は必要でしょうか?」と尋ねられる。私は、どちらとも決め付けられないと返事をした上で、こう問うことにしている。
「あなたのスタンドでクレジットカードによる売上げは全体の何割ぐらいを占めていますか?セルフ化した後に、それを何割ぐらいまで引き上げるつもりですか?もし、そうした明確な目標も持たず、ただ既存のクレジット客を失いたくないという程度の理由なら、それに見合う設備投資だと思いますか?」─。
クレジットカードの不正使用や偽造は今後ますます悪質かつ巧妙になって行くだろう。偽造テレカに悩まされた一時期の公衆電話のように、犯罪者とのイタチゴッコによって、度重なるバージョンアップを強いられる事は十分予想できる。繰り返しになるが、その度に系列店も“応分の負担”をすることになるだろう。本当にそれだけの価値があるものなのかどうかは、スタンド経営者自身がよく吟味すべき問題なのである。
「クレジットカード機能は絶対必要です。これがなければ、顧客の固定化も、油外販売も叶いませんよ!」─こう力説するのは、元売の人たちだ。彼らは、自社クレジットカードが利用できなければ、「そんなシステムはダメです!」と取り合わない。前回のコラムでも少し触れたが、セルフ化の際、自社のPOSシステム導入を絶対条件とする彼らの意図は、将来の“直営化”を見据えてのことだ。とりわけ、自社クレジットカードの発券数をどんどん増やして、特約店や販売店の客を「自分たちの客」へと切り替えようとしている。
したがって、セルフスタンドがクレジット精算機能を導入する事について、私は、(1)今後確実に、防犯・保守コストがかかってくる事と、(2)より一層元売の直轄支配が強まる恐れがある、との理由で、消極的である。もちろん、この考えには反対意見も多いだろう。いずれにせよ、大切なことは、「コストは低く、リスクは軽く」ということである。これを見失ったらセルフスタンドは生き残れない。セルフ化にあたっては、そのことをくれぐれも「ワスレズニ」─。
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