セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.838『アポロステーション』

GS業界・セルフシステム

2021-03-29

 創業家と経営陣とのすったもんだを経て一昨年4月に昭和シェル石油との統合を果たした出光興産。来月から,全国約6400ヶ所の給油所ブランドを,3年がかりで「アポロステーション」に統一させる。該当するGSはすでにホームページなどでお客様に告知している。いままでの「まいどカード」や「スターレックスカード」が順次新デザインのカードに切り替わること,「楽天」,「Ponta」いずれのポイントカードも利用できること,キーホルダー型決済ツール「DrivePay」,「EasyPay」の相互乗り入れも可能であることなど,もっぱらシステム統合を謳っているが,最後の一言が『スタッフやサービス内容は変わりません!』─。

 おいおい,それはちょっと違うんじゃないの? お客様を安心させようとしての惹句だとは思うけれど,せっかくリニューアルするんだから,せめて『新ブランド変更を機に,ますますサービスアップいたします。ご期待ください!』ぐらいのこと言ってちょうだいよ。確かにマークが変わったからといって,売り物のガソリンはまったく変わらないんだけれど,だからこそハッタリでもいいからもっとエキサイティングな告知をすべきじゃないだろうか。

 実際,出光興産は,今回のブランド統一に際し「お客さまの移動に“うれしい”を生み出す未来型のステーションを作っていきたい」と若干意味不明だが,アグレッシブな抱負を掲げている。具体的には,リテール戦略の目玉として,スマートフォン向けの統合アプリを今年度中に展開予定とのこと。すでに両ブランドで「PIT in plus」,「Shell Pass」というデジタルサービスを行なっているが,新しいアプリではそれぞれの機能を単に集約するだけでなく,他業種や新業態との連携,利用者の相互送客などを実現する機能を搭載するという。

 それにしても,給油するだけのことに,ポイントカード,クレカにプリカ,キーホルダー型ツール,さらにスマホアプリと,そんなにバリエーションを揃える必要があるんだろうか。これまで,石油元売各社はPOSシステムを駆使した様々な販促策を考案し,固定化や差別化を図ろうとしてきたが,どれも価格競争から抜け出す決め手とはならなかった。それどころか,金をかけ,手間をかけたシステムが,単なる割引サービスの具と化してきたのを幾度も目にしてきた。果たして今回はどうか─。

 また,迫り来るEV時代に対処すべく,シェル系GSで行なってきた家庭用電力販売を,すべてのアポロステーションで受けられるよう取り組んでゆくとのこと。さらに,高山と館山において実証中の小型EVによるカーシェアサービス,デルタ電子と共同でオープンさせた横浜での複合型EV充電サービスの店舗などが今後新たな商材として実を結ぶかどうかも注目される。

 「これまでSSというと,給油やカーケアなどによってモビリティ社会をサポートする位置付けだったが,今後は暮らしと移動を支えるライフパートナーとして,他元売りとの差別化を図れる戦略を進めていきたいと考えている」 (出光興産・大石リテールマーケティング部長)のだそうで,新生アポロの鼻息は荒い。だが,そのビジョンを全国約6400ヶ所のGSに周知させ,月間3千万件と見積もられている利用客に訴求してゆくのは容易いことではない。

 これまで同様,店舗のカラーが変わり,クルーのユニフォームが変わり,カ-ドのデザインが変わり…それでおしまい,あとはいままでどおりということになり,系列店同士でおぞましいカニバリズムを繰り広げるようなことになりませんように。今度こそ「未来型ステーション」として地域に安定をもたらしてくれますように─。これまで長年“海賊”と“貝族”に脅かされてきた零細スタンド経営者としてはそのことを強く願っている…。

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