セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.860『主導権はどっちが持つのか』

社会・国際

2021-08-30

 『26日,東京パラリンピックの選手村を走る自動運転のバス「eパレット」が,視覚障害のある日本の男子柔道選手と接触,男性は頭と脚に全治2週間のけがを追い,試合出場を断念した。車両を提供・運営するトヨタ自動車の豊田社長は27日,自社のオンラインサイトで謝罪し,「パラリンピックという特殊な環境の中で,目の見えない方もおられれば,いろいろと不自由な方もおられる。そこまでの環境に対応できなかった」と説明。「普通の道を普通に走るのはまだ現実を帯びていない」と語った』─8月27日付「ロイター」。

 第一報を聞いたときには“ああ,やっぱり自動運転はまだまだ危ないな”との感想を抱いたが,その後の報道によると,「eパレット」が横断歩道の前で一旦停止したあと,オペレーターが手動で発進させた直後に,オペレーターから死角の位置にいた選手に接触したとのこと。そうであるなら,これは「eパレット」のせいと言うよりは,オペレーターのせいであり,人為的事故ということになる。ただ,オペレーターが判断ミスをしたとしてもなお,それをリカバーするぐらいじゃないと本当の自動運転とはいえないのも事実だ。

 非の打ちどころがないと思われた人が何か失敗をすると,『あの人も“人の子”だったのね』と言われるとおり,失敗や過ちを犯すのが人間という生きものだ。どれほど完璧なマニュアルを作り,徹底的な教育・訓練を施したとしても,人間が操作をする以上,事故を100㌫防ぐことは不可能だ。“機械が誤作動したときに人間が介入する”という発想ではなく“人間が判断ミスをしたときに機械が制御する”という発想でシステムを構築・運用してゆくべきではないか。

 例えば,2005年4月に起きたJR福知山線の脱線事故。過密ダイヤの中で遅れを取り戻そうとした運転士のスピードオーバーによってカーブを曲がりきれず,107人が死亡した。当時,カーブで速度を制御できる「ATS-P型」という新型の自動停止装置がこの路線に取り付けられていれば,惨事は防ぎ得たと報じられた。だが,1基約1000万円もの設置費用がかかるとのことで,JR西日本の全路線で6㌫しか導入されていなかった。機械化を怠った代償はあまりにも大きかった。

 一方,2018年10月と2019年3月に,インドネシアとエチオピアでそれぞれ墜落事故を起こし,346名の犠牲者を出したボーイングの最新鋭旅客機「737MAX」は,飛行データの解析によると, 対向する空気の流れの角度を検出し,失速防止システムに適格な角度を示す働きをする「AOA」というセンサーが誤作動を起こし,それによって機種が上がり過ぎていると判断したため,下降操作を行おうとするAIと,上昇操作を行なおうとするパイロットとの“主導権争い”が発生し,失速に至ったという。AIに任せておけば絶対安心という訳でもない。もっとも,誤作動を起こしたセンサーを作ったのも人間なのだが…。

 セルフGSにおいては,運営者もお客様も,人間はみな「従」の立場。セルフコントローラーが司る店舗で人間は“危険物の販売を監督する”という名目で店番を務めているだけ。お客も,ボイスガイダンスの案内に従って計量機を操作するだけ。間違いなど起こりようもない。ところが最近,立て続けに「給油したのに(ガソリンが)入っていない」と言ってくるお客がいた。こんなとき“故障?”とうろたえてはいけない。そんなことはあり得ない。「いいえ,お客様。確かに給油しておられますよ」。どうやら自分がイメージしていたよりもフュエルメーターが上がらなかったので,「入っていない」と思ったらしい。そりゃあ,千円分ぐらいじゃあ大した量は買えませんわ…。(苦笑)

 機械が上か,人間が上か。どんなことは機械に任せ,どんなものは人間が担うのか。21世紀の社会システムの大きな大きな課題だ。それにしても,今回の選手村での事故は,トヨタにとって,いや日本の自動車業界にとって,とてつもないイメージダウンとなったんじゃないだろうか。何せひとりのパラ・アスリートの人生を台無しにしてしまったのだから。金メダルをかじったどころの騒ぎじゃないと思う。

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