セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.87『スタートはローコストで』

GS業界・セルフシステム

2005-12-05

 先日、このコラムを読んだというガソリンスタンド経営者の方から長文のメールを頂いた。一年ほど前に、400坪を越す土地を購入し、PBセルフスタンドを建設したのだが、設備面であれこれと欲張り過ぎ、コスト高で苦しんでいるとの事だった。

 精算機は現金・クレジット・掛売の各種カードに対応するフル装備のうえ、スロット機能まで付いている。最新式の洗車機にリフト室も完備。セールスルームの入口には50インチのプラズマテレビを設置し、商品説明などの映像が流れていると言う。プライベート・ブランドのため、デザイナーにカラーリングを依頼したところ、デザイン料や建物やキャノピー、計量機などの塗装に600万円を費やしたともあった。

 「和田さんが言われるように、セルフを考えるときには、単純化、簡略化、省力化が最も重要だと痛感いたしました。弊社の失敗も実例として扱ってもらい、和田さんにはますます頑張ってもらいたいです」─。

 もちろん、まだ一年しか経っていないのだから、“失敗”などと結論付けるのは早計で、ご本人が謙遜なさっておられるのだと思うが、これからなかなか大変であろうことは容易に予想がつく。このスタンドをオープンさせるまでは、築35年70坪の三者店を営んでおられたということで、まさに乾坤一擲の勝負に打って出たわけだが、その勇気と決断力には敬意を表したい。「築30年70坪の三者店」と聞けば、およそセルフ化など考えもしない保守的な経営者の姿をイメージしてしまうのだが、よくぞ思い切ったと感服してしまう。

 この社長は、セルフスタンド建設にあたり、近隣のセルフスタンドを40ヶ所も視察なさったそうである。何という研究熱心!私のような面倒くさがり屋で、何事もテキトーに考える性分の人間には到底まねできないことで、これまた感服してしまう。おそらく、いろいろなセルフスタンドを見てまわりながら、「ああもしたい、こうもしたい」と夢がどんどん膨らんで行ったのではないだろうか。そして、幸か不幸か(?)この会社にはその夢を実現できるだけの資金、あるいはそれを調達できるだけの資産があったのである。

 セルフに限らず、スタンドの新・改築を計画する経営者の多くは、そこにいろいろな夢を詰め込もうとするあまり、ついつい予算オーバーを来たしてしまう。これまで、私がお手伝いさせていただいたセルフスタンドの工事についても、経営者の方が計画の進捗と共に、「これもあれも」と望みはじめるのを制し、「これで十分ですよ」とか「そんな必要ありません」などとお諌いさめするのが常である。

 施主がお金を使いたがるのをやめさせようとするなんて、馬鹿な施工業者かもしれないが、私としては、依頼主に少々盾をついてでも、あとで納得していただけるものを作る責任があると考えている。それに、はじめにローコスト・システムでスタートする分には、あとからどのようにでもバージョンアップが可能である。計量機を増やすにせよ、洗車機を取り付けるにせよ、採算性を図りながら一つずつ付加してゆけば良い。はじめから力こぶを入れて、採算ラインが「燃油量500キロ、油外収益300万円」などというゴージャスなセルフスタンドを作って、もしコケたら目も当てられない。

 あの“無敗三冠馬”デープインパクトは、スタートダッシュから中盤までは逸る気性を抑え、残り100メートルから恐るべき力を発揮すると言われている。セルフスタンドも、はじめからフルスロットルで仕掛けるのではなく、コストを抑えたスタートを切るべきだと思う。セルフの戦いはまだ第1コーナーであり、勝負を掛けるのはこれからだと思うのだが…。

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