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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.871『物言う株主』

政治・経済

2021-11-15

『サザエさん』のテレビ放映が始まったのは1969年(昭和44年)。オープニングテーマは大抵の人が口ずさめることだろう。「ル~ルル ルルッル~ きょ~もいいてんきぃ~♪」のあと,こちらへ向かってやってくるサザエさん一家のうしろから,「TOSHIBA」のロゴが堂々とせまってきて,サザエさんが,「この番組は あすをつくる技術の東芝がお送りします」とアナウンスする。続いてタラちゃんが「いたしま~す!」。(後年,「エネルギーとエレクトロニクスの東芝」に変わった)

 サザエさん一家が,両親と別れてマンション暮らしをはじめ,カツオとワカメもそれぞれ独立するなんてことは想像できないし,だれも望んでいないだろうが,永らくスポンサーとして君臨してきた「東芝」の方は,事実上解体されることになった。風力発電やITサービスなどの事業を包含する「インフラサービス会社」と,デジタル関連事業を引き継ぐ「デバイス会社」に切り分け,残った事業は「東芝」として存続させるという。“あの東芝が…”と驚きをもって報じられているが,いまから6年前,1500億円余りの利益を水増しする粉飾決算を行った時から,こうなることは避けられなかったのかもしれない。ちなみに『サザエさん』のスポンサーは,すでに2018年に撤退している。

 「電球から原子力まで」─。日本を代表する総合電機メーカーは, 「総合」であり続けようとしたがゆえに苦境に追い込まれていった。巨費を投じて買収したウェスティングハウス社の原子力事業が東日本大震災を機に不採算に陥り,家電・半導体・パソコン等も海外メーカーとの競争により軒並み赤字となるに及んでの不正行為で,名門企業の信頼は失墜。2期連続の債務超過による上場廃止を何とか回避しようと,6千億円の第三者割当増資を実施したことが東芝を更なる窮地へと追いやることになった。いわゆる「物言う株主」が乗り込んできたのだ。

 「物言う株主」─資本の論理で言えば,株主なんだから物を言うのは当たり前じゃないか,と思えるかもしれないが,彼らの目的は,できる限り短期間に東芝の市場価値を高めて売り抜けることであり,東芝の業績回復や成長をじっくりと待つつもりなどさらさらないのだ。遅かれ早かれ,彼らは不採算部門を切り捨て,成長が見込める部門は切り売りすることを提案してくるだろうから,そうなる前にこちらから会社を分割させて,各々の企業価値,つまり株価を高め,株主に“物を言わせないよう”先手を打ったというのが,今回の分割の目的と見られている

 東芝が解体されるのは自業自得と言わざるを得ないが,米ゼネラル・エレクトリックも,航空・ヘルスケア・エネルギーを中核とする3社に再編する。経営環境の変化に柔軟に対応し,素早い意思決定をおこなうためには,会社がでかすぎると判断したのだ。また,20日ぐらいでふ化するニワトリの卵と,70日以上もかかるペンギンの卵を一緒に抱いているような組織では,どちらの成長も妨げることになり非効率的だ。そして何よりも,株価上昇を求める投資家の圧力が,複合企業の経営改革を急がせている。

  物言う株主は石油業界にも大きな影響を及ぼしている。今年の5月のEM(エクソンモービル)の株主総会では,投資会社が推薦した候補2人が取締役に選任され,気候変動問題をめぐってEMが行ってきたロビー活動について,報告書の提出を求める議案も承認された。9月に開かれたシェブロンの株主総会でも,温室効果ガス排出量のさらなる削減を求める議案が承認された。石油製品の使用や廃棄から間接的に生じる排出量の削減を要求する内容で,過半数の株主が支持した。そして,きわめつけは10月のRDS(ロイヤル・ダッチ・シェル)の総会。約7億5千万㌦(約850億円)に上る株式を保有する投資会社が,RDSの戦略を「支離滅裂」と批判し,企業価値向上のため,再生可能エネルギーなどの事業を石油などの旧来型事業から分離することを検討するよう求めた。

 気候変動対応をテーマに物言う株主が企業に要求を出す動きは急速に広がっている。気候変動対応に消極的な企業は,今後彼らの格好のターゲットになるだろう。無論,日本の石油元売も狙われているに違いない。人類の命運を握っているのは,政治家でも,科学者でも,宗教家でもなく,株主なのかもしれない。しかし,モノを作らず,サービスも提供せず,従業員にも消費者にも関わらないファンドのカネの力に人間社会のあり方に関わる判断を委ねることは,とてもとても危険なことだと思う。

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