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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.883『死ねと言われたら…』

政治・経済

2022-02-07

 『和歌山県の仁坂吉伸知事は26日,エネオスホールディングス本社を訪れ,大田勝幸社長らに和歌山製油所(有田市)の閉鎖決定について抗議した。その後,記者団に対し,「次の展望を示さずに(製油所を)閉めるのは,地域に『死ね』と言うのと同じだ」と強い不満を表明した。エネオスHDは25日,同製油所の稼働を来年10月をめどに停止し,閉鎖すると発表。石油製品の国内需要は先細りが見込まれ,生産拠点を再編・縮小する一環として,「苦渋の決断」(大田社長)を下したと説明した』─1月26日「時事通信」。

 東燃ゼネラル石油時代から,和歌山製油所は閉鎖がささやかれていた。消費地に遠く,専ら輸出基地だったが,最近は円安にコロナもあって輸出は芳しくない。しかし,いまこのタイミングで閉鎖を決めた最大の要因は,自民党の“ドン”二階俊博氏の影響力の低下だと言われている。和歌山県選出の当選13回の衆院議員。2016年8月から21年9月まで,歴代最長の幹事長として君臨してきたが,岸田政権発足と共にその座から降ろされ政財界への影響力が低下,エネオスはこの機を逃さず閉鎖に踏み切ったと思われる。

 別の要因としては,例のガソリン価格抑制のための補助金が支給されたことがあるとの見方も。世論からは「小手先の対応」「減税で対処すべき」など批判が相次いでいることはご存知のとおり。「石油元売を支援するのはおかしい」との疑念も生じ,元売各社は「補助金相当分を卸売価格に全額反映させる」と火消しに追われた。補助金によって需要を下支えしてもらっているのだから,自ら身を切る姿勢を示さなければ国民に示しがつかないということで,今回の発表に至ったと思われる。

 原油高が追風となり,エネオスHDの業績は好調だ。22年度上半期(4-9月)の税引き前利益は前年同期比4.3倍の3281億円に急拡大しており,併せて,通期の同利益を従来予想の2400億円から4500億円(前期は2308億円)に上方修正した。製油所閉鎖による減損処理のダメージを抑えるにはいまが好機ともいえる。

 一方,和歌山県にとって,今回の決定が地元経済に大きな打撃となることは確かである。和歌山製油所の従業員数は447人。さらに関係先の協力会社では約900人が働く。製造品出荷額では和歌山県の2割,有田市の9割超を同製油所が占めている。とはいえ,「地域に『死ね』と言うのと同じ」という知事の言葉はいかがなものか。まあ県民向けのパフォーマンスだとは思うが,的外れな批判だと思う。

 和歌山製油所の閉鎖の構想はいまに始まったことではない。むしろ,2017年にJXと東燃が合併した時から時間の問題だった。「ウチには二階センセイがいるから大丈夫」と安心していたのかもしれないが,どんな有力者もいずれは終焉を迎えるわけで,将来を見据えて「次の展望」を示すのは知事や市長の仕事じゃないの?製油所閉鎖までにまだ2年近くある。東京ドーム53個分の敷地を更地にしたあと,そこにどんなものを置くかを官民一体となって考えることが焦眉の急ではないか。

 2001年には全国で36ヶ所あった製油所は,21年3月末現在で21ヶ所に減った。これらかも減ってゆくだろう。そして,石油元売は再生エネルギーへのシフトチェンジを加速させる。それはGS業界に携わる我々に『死ね』と言っているのと同じだ。カーボンニュートラルとは,まさにそのようなものであり,化石燃料の製造・販売に従事してきた多くの人を廃業・失業へと追いやる。GS経営者の多くはその「不都合な真実」から目をそむけているが…。

 「あなたの雇用は明日からなくなりますが,空気はキレイになります」と言われたら,どれだけの人がそれを受け入れるだろうか。あるいは,政府が公的年金の積立金を温暖化対策に投資した結果として,「あなたの年金資産が半分に減りました。でも地球の気温は下がりました」と言われたら,どのくらいの人が納得するだろうか。目先の生活の安定を取るか,子孫のために“死”をもいとわないか。持続可能社会を実現するための“本気度”が問われている。

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