セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.890『EV危機』

政治・経済

2022-03-28

『国土交通省は,EV (電気自動車) の充電設備を公道に設置しやすくする方策の検討に乗り出す。まずは設置事例を増やし,周辺交通に対する影響を調査。安全性など課題を整理した上で,道路の占用許可基準の緩和といった制度改正や設置の手引の作成に取り組む。充電設備の不足を解消し,EV普及を後押しする』─3月20日「時事通信」。 

『経済産業省は,EV普及を後押しするため,充電器設置への補助を拡充すると発表した。出力の大きい急速充電器の補助対象場所に商業施設や駐車場,マンションなどを加え,補助額も上積みする。政府は2030年までに充電設備を15万基設置する方針で,EVを利用しやすい環境を整える』─3月25日「時事通信」。

 欧州や中国と比べ,周回遅れの感もあるが,ウクライナ戦争の勃発によって,石油への依存度を本気で下げないといかんという危機感が高まっているのだろう。とはいえ,いまの日本で石油以外のもので電気を賄おうとすると,原発に依存せざるを得ない。もし,国内の乗用車をすべてEV化したら,夏の電力使用のピーク時に現在の発電能力を10~15㌫増強しなければならず,これは原子力発電10基分に相当するとのこと。

 折りしも,16日に東北地方で最大震度7の地震が発生,複数の火力発電所が破損・停止となったうえ,季節はずれの寒さが重なり,東京電力管内では,22日に「電力自給逼迫警報」が出された。テレビニュースでは,「きょうは節電のためスタジオの照明を落として放送します」とアナウンス。TBS安住アナは,朝の情報番組で「減らした分の明るさはなんとか性格でカバーしようと思います」なんて挨拶していたそうだが,連日トップニュースで報じられるのはウクライナの惨状。明るくしようもない。翌日には警報解除となったものの,日本の電力供給の脆弱性を露呈する格好となった。

 「2050年にカーボンニュートラル」という宣言だけは勇ましくしたものの,原子力発電については“脱”なのか“活”なのかいまだ明確な指針を打ち出さないままま“塩漬け”状態。再生可能エネルギーについても,具体的なビジョンは何も示されていない。そこに降って沸いたウクライナ危機。そして地震。今回は“東京ブラックアウト”という最悪の事態を回避できたものの,この先も停電危機は続くだろう。

 こうした不安定な供給システムと原油価格の高騰で,いま企業向け電気料金で異常事態が起きているという。家庭用電気料金は消費者保護の観点から上限が定められているため,値上げは一定のところで止まるが,企業向け電気料金はこの1年で既に1.5倍となっており,とりわけ新電力の経営状況を圧迫しているという。今月4日には,楽天が「楽天でんきビジネス」の契約受付を一時中止すると公表した。また,エネオスや出光興産,日鉄エンジニアリングなどの大手が企業向け見積りを停止。中堅クラスの新電力数社が,すでに企業向けからの撤退を決めた模様だ。

 せっかくEVが環境に優しい乗り物だとしても,肝心の電力供給システムが相変わらず火力発電に依存しているようでは,日本におけるEVの環境性能に大きな疑問符が付く。充電器による電気料金は家庭用の2倍ぐらいに設定しないと元が取れないとの試算もある。そんな状況にもかかわらず,冒頭の記事のように,EVのためのインフラ拡充がなりふりかまわず進められているが,ここへ来てEVを取り巻く状況は大きく変わろうとしている。パンデミックによるサプライチェーンの混乱に加え,今回のウクライナ戦争によって,EVの心臓部であるバッテリーの製造になくてはならないレアメタルが,凄まじい勢いで値上がりしているのだ。

 7日にはニッケルとアルミニウムの価格が,最大生産国のロシアからの輸出が途絶するのではないかとの不安から過去最高を更新した。リチウムの価格も,昨年末から2倍以上になった。半導体の製造に欠かせない希少資源 ネオンは,世界生産の70㌫近くがウクライナで産出されており,低価格EVの普及は当分不可能との観測も出ている。EVが一部の富裕層の乗り物にとどまるようだと,「充電インフラが整っていないから,EVが普及しないんだ」と言われてきたのが,「充電設備はあちこちにあるけれど,肝心のEVをあまり見かけない」と皮肉られるようになるかもしれない。 

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