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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.893『悪い円安』

政治・経済

2022-04-18

 『鈴木財務相は15日の閣議後会見で,「悪い円安とは何か」と問われ,「今,円安が進んで輸入品などが高騰をしている。特にウクライナの情勢も加わって,そういう傾向が強い」と指摘し,「原材料を価格に十分転嫁できないとか,あるいは買う方も,賃金がその伸びを大きく上回るような,それを補うようなところに伸びていないという環境については,“悪い円安”と言えるのではないか」との認識を示した』─4月15日付「日本経済新聞」。

 ついこの間までは,円高になると,政府が為替介入してまで円安へと誘導していたのに,いまや円安が悪いという。円安になれば,日本の基幹産業である輸出企業にとって,海外市場における自社製品の価格競争力が高まるため,業績改善につながる。また,輸出から輸入を差し引いた純輸出が増えれば,GDPの押し上げ要因となる。これは“良い円安”。一方,エネルギーや食品などの輸入品は基本的に外貨建て取引のため,円安が進行すると,輸入コスト増で業績が圧迫される。また,企業がコストの増加分を価格に転嫁した場合,家計にとっては製品の値上がりとなり消費の減衰に繋がる。これが“悪い円安”。で,いまは円安の恩恵よりも損害の方が大きいというわけだ。

 だが,そもそもの原因は,ウクライナ戦争によってエネルギー価格や穀物・海産物などの価格が高騰したことにある。とりわけ,ガソリン価格の高騰は深刻。米国では先月,1ガロン(約3.8㍑)当り4.3㌦と14年ぶりの高値となり,今月に入っても4㌦台で高止まっており,11月に中間選挙を控えるバイデン政権にとって,ガソリン価格の抑制は最重要課題。日量100万バレルを半年にわたって放出することを決定したほか,石油会社に対しては,未使用の掘削許可済み公有地の手数料徴収をちらつかせながら,増産を再三求めている。

 脱炭素化を目玉政策としていたバイデン政権だが,12日にはトウモロコシなどを由来とするエタノールを15㌫混合したガソリン(E15)の夏季販売を許可することも発表した。Eガソリンは通常のガソリンに比べて約10セント安価とされるが,高温下の使用ではスモッグを発生させる危険性があることから,夏季の使用はこれまで禁止されていた。しかし,いまは取りあえずガソリン価格を抑えることが先決ということで,なり振り構っちゃいられないという感じだ。

 FRB(米連邦準備制度理事会)も,物価高にブレーキを掛けるべく,3年ぶりの利上げに踏み切った。これはあくまで憶測だが,独立性を堅持する中央銀行が,ここに来て政権の援護射撃とも取れるかたちで利上げを実施したのは,ここでバイデン政権を支えないと2年後にまた“あの男”が大統領に返り咲くかもしれない,それだけは何としても阻止したい,との思惑があるんじゃないだろうか…。

 一方,日本はといえば,依然として「異次元金融緩和」を堅持する方針だ。日本でも物価は上がっているが,米国とは異なり,景気の回復と賃金の上昇をともなっていない。むしろ,賃金が十分に上がらず物価だけ上がる,「悪いインフレ」となっており,景気にとって好ましくない状況だとして,日銀は金利を低く抑え続ける必要があると判断したのだ。おかげで円安が急速に進行し,20年ぶりの水準となっている。

 任期があと一年となった日銀・黒田総裁は,物価の上昇に懸念を示しつつも,「円安には輸出企業の収益を拡大させるメリットも大きく,日本経済全体にとってはプラス」という考えを崩していないそうだ。9年前の就任時に,黒田総裁はデフレ脱却を目指し,物価上昇率2㌫を標榜したが,皮肉なことに「悪い円安」のおかげで,この目標がようやく達成されそうだ。ただ,それは「経済が力強く回復したことによる物価の上昇」とは程遠い。冒頭の財務相のコメントは,「賃金を上げないから円安が悪い方向に作用しているんだ」とも聞こえるが,この状況で一体どれぐらいの企業が賃上げできるというんだろう。“賃上げより消費税減税を“との声はいよいよ強まっているが…。

 さて,日本のガソリン価格についてだが,石油元売に支給している補助金を5月以降も継続することになりそうだ。1㍑あたり25円としている上限も引き上げるらしい。旧暫定税率相当分も越えてしまうというのなら,いっそのことガソリン税まるごと,53.8円を上限に設定すればいいんじゃないか。

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