セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.896『安全上の問題はない』

GS業界・セルフシステム

2022-05-09

 『出光興産は6日,子会社の東亜石油が生産したガソリンや軽油など12品目の石油製品について,品質検査で不正行為をしていたと発表した。検査の頻度を偽装したり,虚偽の試験結果を提出したりしていたという。出光は「安全上の問題はない」として,製品の販売は続ける。不正は東亜石油の京浜製油所(川崎市)で少なくとも5年前から行われていたという』─5月6日付「日本経済新聞」。

 具体的にどんな不正があったのか。ガソリンなどの品質確保に関する法律では,健康被害の恐れがある鉛が混入しているか測定する検査を3ヶ月に1回実施する必要があるが,東亜石油は年1回しか実施していなかったらしい。そのくせ検査記録には法令基準を上回る月1回実施しているように記入していたという。ただ,そもそも生産過程で鉛を含む添加物も使っていないため,混入の可能性は低いとしている。そのため「安全上の問題はない」と─。

 この手の不正が発覚するたびに,「安全上の問題はない」と言われるんだけど,そうだとしても,消費者に偽って販売したことには変わりない。熊本アサリの産地偽造だって,安全上の問題はなかったが,信頼の失墜は甚だしいものだった。今回のケースは明確なコンプライアス違反。しかも3ヶ月に1回でいい検査を毎月実施しているかのように装って“優等生”を演じていたというのだからタチが悪い。いま石油メーカーは,需要下支えのために国から補助金,つまり税金をジャブジャブつぎ込んでもらっている立場だ。そんな会社が検査コストを浮かせていたとは何ともはや…。

 報道によれば,不正は「少なくとも5年前から行われていた」とのことだから,そのころ東亜はまだシェル傘下にあった。2019年から出光傘下となり,2020年に就任した現社長は出光出身だそうだが,不正の慣習もしっかり引き継いでしまった訳で,ガバナンス欠如の責めは免れようもない。東亜石油のHPには『品質管理の重要性を自ら考え行動し,創意工夫と技術革新をもって品質管理の向上に努め』るとあるが…。

 しかし,その上で言わせてもらえば,製造工程で鉛を一切使っていなかったのなら,予め当局にその旨説明して“当該検査は必要ありません”と云う訳にはいかなかったのだろうか。有鉛ガソリンに関して言えば,昨年8月にUNEP(国連環境計画)が,世界中でほぼ1世紀に渡って続いた道路上の有鉛ガソリン使用が終了したと宣言している。時代や環境の変化に伴い,規制や基準も変えてゆくべきだとは思う。コスト削減でただでも大変な現場において,実態に則していない検査を手間隙かけてやらせるのはいかがなものか。規則を破るから不正となるのだが,そもそもその規則は必要なものだったのか。

 東亜の製品は出光製品の1割程度を占めるとのことだが,例によって元売・商社間でのバーターによって,製品は出光系列店以外のGSにも流通しているだろう。無論PBスタンドにも。毎年19万円近い製品分析料を払って10日置きに検査を実施して(させられて)いる私たちPBスタンドは,今回の不正事案をどう受け止めれば良いのか。ちなみに,「セルフスタンド日進東」は22年間いろんな会社からガソリンを仕入れてきたが,鉛も硫黄もベンゼンも検出されたことは1度もない。東亜石油の製品を購入したら,「品質に問題がない」のだから,検査をスルーしてもらえるということか?

 その一方,知床遊覧船事故の続報を観ていると,何でこんなに杜撰な運営会社に当局は「合格」を出したんだろうという疑問が沸いてくる。船体には10㌢程の亀裂が入っていたそうだし,衛星電話は少なくとも1年前から故障し,会社事務所の無線アンテナも折れていたことが分かっている。しかし,小型船舶の検査は文書や口頭での確認が主体で,事業者の運航実態を継続的に確認する制度がないのが実態だという。事故の3日前に行われた検査も,恐らくそんな程度のものだったのだろう。担当官は「安全上の問題はない」と判断したのだろうか。

コラム一覧へ戻る

ページトップへ