セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.898『ちょい乗り』

政治・経済

2022-05-23

 『日産自動車と三菱自動車は20日,共同開発した軽EVの生産を始めた。電池の搭載量を減らして,国の補助金を使っての実質価格を180万円前後に抑え,日常の足としての需要を取り込む。ホンダやスズキなども2025年までに軽EVを投入する。国内新車販売の約4割を占める軽の電動車シフトは,日本のEV普及を占う試金石となる』─5月20日付「日本経済新聞」。

 日産は「サクラ」,三菱は「eKクロスEV」としてそれぞれ22年夏に発売するとのことで,初年度の販売目標は両社合計で5万台。ちなみに,昨年度の新車販売台数1位のホンダ「Nボックス」は19万台強。意気込みの割には控えめな感じ。180万円は同クラスのガソリン車と遜色ないと謳っているが,「Nボックス」は150万前後で,こちらもやや高めだ。しかも補助金頼み。

 価格引き下げのカギは,車両コストの3分の1を占めるリチウムイオン電池の搭載量。軽自動車の用途として“ちょい乗り”と呼ばれる短距離の走行が多いことを勘案し,1回の充電による航続距離は約180㌔㍍と,日産「リーフ」に比べて100㌔㍍以上抑えたという。でも,実際の走行距離は「カタログ値の7割程度」というのが定説。しかも両社とも燃費改ざんの“前科”があるので,イマイチ信用できない。それに180㌔ギリギリまで乗れないから,せいぜい100~130㌔ぐらいで,やはりセカンドカー程度にしかならない。

 ただ,EVはちょい乗りに適した車ではある。ガソリン車(ディーゼル車も)の場合,冷却水が適温まで暖まらないとエンジン内部が熱膨張による適正なコンディションにならない。エンジンオイルなら適温になるまでに出る水分が蒸発せずエンジンオイルの劣化が進みやすい。ちょい乗りはガソリン車にとってダメージの大きい乗り方なのだが,EVにはこうした弊害はない。

 一方,航続距離が短いということは,しょっちゅう充電することを意味する。充電を繰り返すことで,リチウム電池の電流を流す働きが少しずつ弱まり,貯められる電気量が少なくなっていく。これを「サイクル劣化」と呼ぶそうで,極端にバッテリー残量が減らないようにするためには,必要以上に頻繁に充電しないことだという。でも,実際スマホなどの電池残量が50㌫を切ったりすると心配で,生きた心地がしないという人,結構いるんじゃないだろうか。スマホが移動中などに使えなくなったら,連絡が取れないどころか,買い物することも,乗り物に乗ることもできないご時世だ。もし自動車が途中で止まったら…と考えると,ついつい“ちょい充電”を繰り返してしまうだろう。

 EV購入にためらう人たちの一番の理由は充電インフラ。自宅で100㌫充電して出かけたとしても,やはり出先で充電できる拠点が少なければ不安だ。EV関連のニュースでは,きまってこの点がセットで報じられるのだが,実は日本の充電ポイントは2021年3月末現在で3万ヶ所弱あり,英国より多く,フランスに迫る勢いで,現時点で「飽和状態」にあるという。それもそのはず,2021年だけでも英仏ではそれぞれ30万台を超えるEVが販売されたのに対し,日本は2万台程度。せっかく充電ポイントを設置しても,全然利用されないうえ,メンテナンス費用が高額で撤去してしまう自治体や自業者が増えつつあり,充電ポイントの数は一昨年度から微減に転じている。

 それにしても,2010年に日産が「リーフ」をリリースした頃から,日本のマスコミはずっと「EV元年」と言い続けているが,10年以上経ってもまだ「元年」。(笑) EV市場での出遅れは官民一体でよほど思い切った政策を実行しないと取り戻せないだろう。ところが,この出遅れがここへ来てむしろ幸いしているとの声もある。「パンデミック」と「ウクライナ」という未曽有の災禍によって,これまで安定的に供給されてきたあらゆるモノが手に入りにくくなっており,本当にEV社会なるものが実現するのか,実現させるべきなのか疑問視する有識者もいる。EVは製造から廃棄の全過程において,ガソリン車よりもCO2を多く排出するというデータもある。せっかく出遅れたんだったら,ここは“ちょい”立ち止まって,趨勢をいま一度見きわめてみてもいいんじゃないだろうか。

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