セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.90『小田原攻防戦記』

GS業界・セルフシステム

2005-12-26

 東名高速・大井松田インターを降りると神奈川県・小田原市を南北に走る国道255号線につながる。この幹線道路沿いで、いま、ちょっとした騒ぎが起きている。今月初旬の小田原のガソリン価格は130円で、温暖な気候さながらの市況を保っていたのだが、セルフ改造オープンしたS石油が120円の価格を掲出、これに呼応した競合店がさらにこれを下回る価格で販売するなどして、最安値115円にまで下落した。一ヶ月も経たないうちに、小田原のガソリン価格は15円も急降下したことになる。

 セルフスタンドに改装する前のS石油はと言えば、掛売り主体の標準的なスタンドで、小田原市内にあってさほど注目を浴びるような存在ではなかった。しかし、現状のままでは存続は難しいとの危機感を抱いたS石油の経営陣はセルフ化を決断、薄利多売にも耐えうるローコスト戦術で死中に活を求めたのである。

 小田原市のスタンド業者は、市況崩壊の戦端を開いたS石油に非難を浴びせ、何とか抑え込む手はないかと思案中のようだが、これが本当の“小田原評定”。それを尻目に、当のS石油は、当初予想を大幅に超える販売量を達成する模様だ。

 ところで、それまで草を食む羊のようにおとなしかったS石油が突如豹変したのは、どうやら「愛知県のSSアドバイザー」なる人物の指導に従った結果だというウワサが流れているらしい。「愛知県のSSアドバイザー」って誰?あっそうか、俺のことか!

 誤解のないよう申し上げるなら、私は「SSアドバイザー」ではない。「セルフスタンドコーディネーター」だ。つまり、スタンドをセルフに改造するにあたって、工事の調整や機器類の選定を行ない、投資や運営において余分なコストがかからないようにお手伝いをするのが私の仕事で、「こうやって売りなさい」などと経営者に指南するようなせん越なことは一切しない。S石油についても同様である。

 S石油からの依頼で小田原に出向いたのは今年の9月だったが、立地条件が良い上、比較的低予算で改造できる構造の店舗だったこともあって、速いスピードで計画が進んだ。防火塀の向こうには富士山がデーンとそびえ立っており、工事中、雄大な気分に浸ることができた。小田原港の近くの食堂で食べた新鮮なアジフライ定食、うまかったなぁ…。

 S石油のS社長のローコストセルフにかける熱意は並々ならぬものがあり、大いに啓発を受けた。やはり、セルフ化の成否を握るのは、経営者の決断力と実行力なのだということを改めて思い知った。小田原市のスタンド業者は、彼のことを(ついでに私のことも)ならず者呼ばわりしているが、肝心の小田原市民は、ガソリンが安く、早く給油できて喜んでいるのではないだろうか。それがけしからんと言うのは納得できないのである。

 もちろん、常々このコラムでも書いているとおり、セルフは安売りをするための手段ではない。しかし、異業種も含めたカテゴリーキラーが次々と参入しつつあるスタンド業界にあって、これからますます厳しい価格競争を戦わざるを得ないのが現実である。その中にあって生き残ってゆくためには、強靭なコスト競争力を持つことが何より肝要なことではないだろうか。

 戦国時代、関東一円を百年の長きに渡って治めた北条家五代の居城は小田原にあった。その間、小田原城は1561年に上杉謙信により、1569年には武田信玄により攻囲されるが、いずれも籠城戦法によりこれを退けている。戦国時代を代表する二人の猛将の攻撃に耐え、遂にこれを撃破した持久力こそ、今日のローコストセルフの目ざす姿と言える。

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