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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.914『連合王国』

社会・国際

2022-09-12

 先週は「英国」のニュースが世界の注目を集めた。まずは,政権与党の新しい党首,つまり新しい首相に女性として3人目のエリザベス・トラス氏が就任したというニュース。前政権で外相を務め,ウクライナ侵攻の構えを見せたロシアへの制裁にいち早く動き,侵攻後も一貫してウクライナ支援を推し進めてきた。また,就任早々,中国の位置づけをこれまでの「競争相手」から,国家の安全に対する「脅威」に引き上げると宣言,中国に対する姿勢は「アメリカ政府内のタカ派よりも強硬だ」とも言われている。その強面ぶりを評して,メディアからはサッチャー元首相になぞらえて「鉄の女2.0」と呼ばれているとのこと。

 それにしても,第二次大戦後から保ってきた「軍事的中立」を放棄してNATO加盟へと舵を切ったフィンランドのマリン首相や,中国との対決姿勢を鮮明にしている台湾・蔡英文総統,その台湾をバイデン大統領の制止を振り切って訪問し,中国を激怒させたペロシ米下院議長など,このところ女性リーダーの勇ましい行動が目立つ。というか,女性リーダーと聞くとタカ派のイメージがあると感じるのは私だけだろうか。男社会において鎧をまとい差別や偏見と戦ってきたことが,彼女たちをして“ナメたらいかんぜよ”と喧嘩腰の行動へと駆り立てているのでは,とは言い過ぎか。あるいは,女性特有の母性が“子ども”である国民を脅かす存在に対して本能的にファイティング・ポーズを取らせるのだろうか─。

 とにかく男性であれ,女性であれ,指導者が大衆のウケを狙って威勢のいいことを言ったり,強硬な態度を取ったりした結果,取り返しのつかない事態を招いてしまった例はたくさんあるわけで,宇露戦争に揺れる世界の中で,英国新首相の言動は世界の行く末を左右することになるだろう。

 そのトラス首相を,在位中15人目の首相として任命したエリザベス2世女王が,その2日後の9月8日に96歳の生涯を閉じた。在位は歴代最長の70年。立憲君主制の英国において,女王は国家元首とはいえ政治権力を行使しないので,その死が英国および世界に影響をもたらすことはないと見られているが,本当にそうだろうか─。

 エリザベス2世のひいひいおばあさんにあたるヴィクトリア女王は1901年に亡くなるまで,63年間英国女王として君臨した。「ヴィクトリア朝」と呼ばれたこの期間は,大英帝国が最も栄えた時代でもある。ヴィクトリア女王の9人の子女(4男5女)が欧州各国の王室・帝室と婚姻を結んだ結果,ヴィクトリアは「ヨーロッパの祖母」と呼ばれた。家長が死んだ途端に兄弟喧嘩が始まるというのはよくあること。ヴィクトリアの葬儀が終わるや否や,欧州列強の勢力争いが激化,遂に1914年,“いとこたちの戦争”とも言われた第一次世界大戦が始まったのだ。

 英国はイングランド,スコットランド,北アイルランド,ウェールズからなる「連合王国」である。だが,この「四兄弟」,決して仲良し家族というわけではない。北アイルランドでは隣国アイルランドとの統一を求める機運が高まっているし,スコットランドでは分離独立を目指す政党が勢力を伸ばしている。19世紀までは鋼のような強さを誇った大英帝国も,いまや鉄と粘土が混ざり合った“脆い王国”となっており,連合王国の母だったエリザベス女王の死によって兄弟喧嘩が活発化し,連合解体が一気に進むのではと懸念されている。

 また,大英帝国の旧領土である56ヵ国で構成されている「コモンウェルス」という経済同盟があるのだが,女王は2年に1度開催される「コモンウェルス諸国首脳会議」に毎回出席し,各国首脳と同じ時間ずつ個別に会見の場を設けてきた。女王は各国の現状について驚くほどの知識を有しており,首脳たちはこの謁見を心待ちにしたそうで,時には英国政府には直接言えないような悩みを女王に打ち明けていたという。こうした精神的な紐帯が女王の死によって緩まる,あるいは途切れてしまわないか─。

 英国が弱体化し,その連合国のあいだで結束に乱れが生じることは,宇露戦争の長期化で追い詰められているロシアや,新中華帝国の建設を標榜している中国にとっては好都合といえる。エリザベス女王の死は,ヴィクトリア女王の死と同じように,世界の政治・経済・軍事などの流動化を生じさせるかもしれない。新首相と新国王は早速正念場を迎えることになりそうだ。

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