セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.916『亡国の序曲』

社会・国際

2022-09-26

 『トヨタ自動車は23日,ロシア西部サンクトペテルブルク工場を閉鎖し,ロシアでの生産から撤退すると発表した。ロシアによるウクライナ侵略から7か月を迎える中で,生産再開の見通しが立たないことが主な理由だ。事業譲渡ではなく,建物や土地などの売却に向けた手続きを始める。ロシアに対する世界的な非難は強まっており,トヨタの企業イメージを考慮した可能性もある。トヨタは2007年にロシアでセダン「カムリ」の生産を始めた。21年にはトヨタの世界生産の1㌫弱にあたる約8万台を生産していた』─9月24日付「讀賣新聞」。

 サンクトペテルブルク工場は,宇露戦争勃発から一週間後には部品供給が滞り,操業停止に追い込まれたのだから,ここまでよく踏ん張ったなあというのが率直な感想。生産・販売はやめるものの,モスクワの小規模なオフィスでサービスメンテナンスには可能な限り応じるとのことで,メーカーとしての責任はあくまで果たす意向だが,この戦争はまだ当分続くだろうし,もし終息したとしても,欧米の経済制裁はそう簡単には解除されないだろうから,“もはやこれまで”とひとまず見切りをつけたのだろう。

 マクドナルドが撤退しても“なんちゃってバーガー”を作ることはできるが,自動車となるとそうは行かない。日本車はロシアでも人気が高く,とりわけ富裕層はレクサスやランクルをこぞって買い求めていたという。中国経由で輸入するという方法もあるが,懸念されるのは,それら人気車種が日本で盗難され,ロシアに密売される頻度が今後高まるのではないかということなんだとか。ちなみに,日本損害保険協会の調査によると,2021年に盗難被害にあった車両は9189台で,上位3車種は,1位 ランドクルーザー 331台(13.6㌫),2位 プリウス266台(11㌫),3位 レクサスLX 156台(6.4㌫)とのことだ。無論,盗難車がすべて海外で売られるわけではないが,その“需要”は増え続けると見られている。

 ソ連崩壊後,新生ロシアへの期待から次々に外国企業が進出し,ロシア国民の生活も次第に向上して行くかに見えたが,今回の“特別軍事作戦”で元の木阿弥になってしまったように見える。「見える」と書いたのは,実際のところはどうなのか,ロシアの人たちに聞いてみなければ分からないから。あるロシア国籍の人に「お国は大変でしょう」と聞いたら,「それでもペレストロイカの時に比べればマシです」という答えが返ってきたという。しかし,これまでは“欲しがりません,勝つまでは”と我慢していた国民も,一般市民に召集令状が送られる事態となり,さすがに“こりゃあヤバいぞ”となってきたんじゃないだろうか。

 理不尽な侵略を受けたウクライナの人たちには本当に同情するが,一方でロシアの人たちも気の毒だなと思う。一年前は「iphon」で音楽を聴きながら「ビッグマック」をほおばり,「TOYOTA」の車でドライブを楽しんでいた若者が“徴兵のためあす出頭せよ”との通知を受ける─。ロシア政府は,招集は30万人規模で「戦闘経験を持つ者が対象」と説明しているが,国防大臣が,「潜在的に動員できる国民は2500万人(国民の6人に1人)いる」と発言するに及んで不安が拡大している。

 インターネット上には,招集を逃れるために「腕の折り方を教えるサイト」なるものが登場,アクセスが集中しているとのこと。キャッチコピーは「腕を折ります。痛みなしに」。費用は1500ルーブル(約3500円)。出国を目指す市民も後を絶たず,動員令発表後,モスクワからイスタンブールやドバイに向かうエコノミークラスの片道運賃は,9200ユーロ(約130万円)まで高騰した。

 果たしてロシアの人々は,プーチンの侵略戦争にどこまで付き合うつもりなのだろうか。動員令が発せられた直後から,モスクワをはじめ国内38都市で堰を切ったように抗議デモが勃発,一日で1300人余りが拘束されたそうだが,多くのロシア人は泣く泣く戦場に駆り出されている。一方のウクライナも,反撃が加速する中,ますます攻勢を強めると見られており,この先も双方おびただしい人々の血が流れることは間違いない。どちらが正しくて,どちらが間違っているという話ではない。それにしても,息子たちが自分の「腕の折り方」を真剣に調べるような世の中って一体…。

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