セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.920『ストライキ』

社会・国際

2022-10-24

 フランスでテレビをつければ,連日,ガソリンスタンドにできる長蛇の列,ガソリンスタンドをハシゴしながら夜中にガソリンを探し回る人々の様子,給油の順番をめぐって客同士が取っ組み合いの喧嘩をする様子などが報道されているという。いまや,「ガソリンが高いか安いか」という以前に,「ガソリンがあるかどうか」が問題という状況となっており,ガソリンのあるGSを検索するアプリが必須アイテムと言われるほどなんだとか。

 なぜこんなことになっているのかというと,9月下旬に仏エネルギー大手トタルエナジーズの製油所などでのストライキが発生したため製油が滞り,仏全土のGSへの燃料供給量が大幅に低下してしまったから。一部労組は妥結したが,ストを継続した強硬派組合に対して仏政府が業務復帰命令を出す強硬手段をとると,今度はこの措置に対する反発が生じ,「ストライキをする権利を主張するストライキ」に発展,他の労組も加わってパリでは1万3千人がデモを行い一部が暴徒化するなど,混乱が広がっているとのこと。

 トタルは今年の第2四半期(4~6月),石油・ガス価格の上昇が追い風となり,営業利益が131億㌦と,前年同期比約2倍となった。これに対し,組合側は物価高や企業が多大な利益を上げていることを引き合いに10㌫の賃上げを求めているという。要求額が妥当なのかどうかはさておき,ストライキといえば,どちらかといえば立場の弱い労働者が困窮に耐えかねて起こすというイメージだが,戦禍によるエネルギー危機のさなかに,社会活動の生命線であるガソリンを“人質”にしてのストライキには,ストに寛容とされる仏国民も辟易しているとのことで,世論はスト支持派と不支持派に割れているのだとか。

 一方,日本の製油所事情はというと,2021年3月末時点での原油処理能力は1日当たり345万7800バレル(約5億5千万㍑)で,直近20年間で35㌫減ったが,同期間に国内の燃料油販売は38㌫減少しており削減のペースが追いついていない状況だ。脱炭素やEVの普及で,今後燃料の余剰は一段と増加すると見られており,エネオスは和歌山県の,出光は山口県の製油所をそれぞれ2023年度中に閉鎖すると発表している。両方で日量約25万バレル(約4千万㍑)が削減されるとのことだが,地元自治体の首長が雇用が失われることに懸念を示したものの,製油所労働者のストやデモに発展することはなかった。

 そういえば,ストライキって日本では全然聞かなくなったなぁと思い調べてみたら,半日以上のストは,1974年の5197件,362万人をピークに減少に転じ,2010年には38件2千人程度となり,その状態がいまも続いているとのことだ。1974年といえば,第一次オイルショックが起きた年だ。消費者物価指数が20㌫以上も跳ね上がり,GSは日曜営業が事実上禁止され,原油価格と直接関係のないトイレットペーパーや洗剤などの買占め騒ぎが起きたりして,社会不安が拡がっていたこの時代,労働者は賃上げを求めて活発にストライキを行なっていた。なぜ日本でストが減少したのかについては,いろんな人がいろんな事を述べているが,やはり古来からの“和を以って貴しと為す”と言われる日本人の気質が影響しているのではないかと─。

 物価が上がっても,給料が上がらなくても“一丸となって”堪え忍び,列ができれば秩序正しく並んで待つ国民性は,権利を主張することをモットーとするフランス人から見ると奇異に感じるのかもしれないが,その穏やかさ,温和さが,いまのところ大きな混乱もなく社会活動が回っている原動力とも言える。しかし,近年,格差の拡大が拡がっていることや,ソーシャルワーカーに従事する人たちの過酷な労働環境が問題視されるなど,人々の不安や不満がマグマのように溜まり,いつ爆発してもおかしくないと警鐘を鳴らす専門家もいる。フランスで起きていることは決して“対岸の火事”ではなく,むしろ“他山の石”とせよと─。

 GS経営者の端くれとしては,注文した商品がきちんと届けられることを当たり前とは思わず,精製会社や運搬業者の働きに感謝しつつ,徒や疎かには扱うまいとの気持ちで販売してゆきたい。たわけた安売りなどせず,適正な価格で地道に…。それにしても,このところ一段と売れ行きがよくありませんな。お客がウチの店に対してストを起こしてるんじゃないかと心配になってしまう。

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