セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.923『もやしのはなし』

政治・経済

2022-11-14

 11月11日は,「もやしの日」だそうだ。もやしがまっすぐ伸びる様子を1が四つ並んでいるのに見立てての事だという。大方の記念日同様,もやし生産者がもやしをたくさん食べてもらおうと制定したのだろうと思いきや,今年の「もやしの日」はいささか深刻な趣となった。というのは,11月7日付の「日本経済新聞」に,もやし生産者協会が全面広告を出したのだが,その内容は『「物価の優等生」として家計に貢献できることはわたしたちの誇りでもありました。しかし,安さばかりを追求していては,もう続けていけない状況です。もやし生産者の窮状をご理解ください』という,悲痛な訴えだったのだ。

 広告の中で,30年前と比べて,原料種子は3倍以上,最低賃金は1.7倍,その他様々なコストも上昇する一方で,もやしの平均価格は2割以上も下落している状況で,もやし生産者は8割減少していることが,グラフ付きで説明されている。この広告を見たあと,妻に「いま もやしっていくらするの?」と聞いたら,昨日買った1袋200㌘のもやしが19円(税別)というレシートを見せてくれた。妻によると,この界隈では一番安いとのことだが,他のスーパーでも30円はしないとのこと。

 もやし生産者協会の会長で,自身ももやし生産者の林正二氏によると,スーパーの野菜売場ではもやしが一番購入点数が多く,安売りすれば「この店は安い」というイメージを作りやすいため,薄利で売られているのだという。もやしは計画生産が可能で,豊作・不作による相場の変動がないため,小売店の価格競争に用いられやすい。そのため,小売店に対して「値上げを受け入れてくれなければ納入しない」と言っても,「じゃあ他所から買う」と言われ,値段の交渉に応じてもらえないことがしばしばだという。『個別に交渉するのは限界があることから,広く知ってもらうために思い切って広告を出しました』(林氏)

 もやし業界の切実な現状には同情するものの,消費者に訴えかけたところでどうなんだろう?という疑問もある。もやしに限らず,消費者にとってモノの値段は安いに越したことはない。広告を見ても“大変ですね,頑張ってください”と言われておしまい。むしろ小売店に適正価格で買ってくれるよう訴えるべきだろう。値上げ交渉をすると「他所から買う」と言われてしまうということは,同業者を出し抜いて安く卸す生産者がいるということ。自由競争なのだから致し方ないことだし,値上げしなければやってゆけない生産者は上げるか,やめるしかない。

 価格競争から抜け出せずに,商品価値を貶めている有様はGS業界と大差ない。ただ,もやし業界よりましと言えるのは,我々はある程度の価格転嫁が許されていること。全石連が新聞広告を出さずとも,消費者の温かい(?)諦念に甘えて,下げては上げ,下げては上げを繰り返している。原油高と円安によるコスト上昇も,政府がこれまでに1兆円を超える補助金を出して抑えてくれているおかげで,欧米諸国より安い価格で販売できている。恵まれているというか,甘やかされているというか。

 それにしても,このままガソリンの高止まりが続くようであれば,際限なく補助金を出し続けなければならない。どうするつもりなんですかね。補助金を打ち切った途端ガソリン価格は跳ね上がり,人々はますます生活防衛に走り,鍋料理の季節とも相まってもやしの価格は一層下げ圧力が掛かる…。だが,GS業界はもやし業界よりももっと厳しい未来が待ち受けている。価格がどうあれ,もやしが食卓からなくなることはないが,ガソリンはやがて不必要なモノになってしまうかもしれないのだ。

 もやしは,原料種子である緑豆が,中国からシルクロードを通じて日本に伝わり,すでに平安時代には食べられていたという。いまでこそ,庶民の味方の代表のような食材だが,むかしは1個の種から1本しかできないもやしは贅沢品とされ,貴族しか食べられなかったと言われている。今後,カーボンニュートラルの潮流の中で,バイオ燃料の生産拡充が進み,トウモロコシやサトウキビだけでなく緑豆や大豆なども原材料となる技術が開発されたら,もやしの価格は暴騰し,高級食材になってしまうかも─。

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