セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.928『漏れる』

社会・国際

2022-12-19

 「水族館恐怖症」というものがあるらしい。水が苦手,魚が苦手,暗い所が苦手などとは少し異なり,アクリルガラスの向こうに大量の水があることから来る圧迫感が恐怖へと変換されてしまうのだという。“もしこのガラスが割れたら…”と思うと,心拍数が上がったり,異常に発汗したり,足がすくんでしまったりする人もいるそうだ。“大丈夫だよ。水族館のガラスはものすごく分厚くて絶対割れないように作られているんだ”と言われても,怖いものはコワイ。恐怖症とは概してそういうものだ。

 そんな人たちが抱いていた不安が,先ごろドイツで現実化した。『ベルリン中心部にあるホテルで16日,ロビーに設置されている高さ16㍍,直径11.5㍍の円筒形の巨大水槽が破裂し,約100万㍑の水と約1500匹の魚が地上階に溢れたうえ,ガレキがホテルの外まで流れ出し騒然となった。周辺の道路は封鎖され,ガラスの破片で2人がけがをした。警察はテロなどの兆候はないとしている』─12月16日付「AFP通信」

 ベルリン市当局によれば,水が「激しい津波」のように流れ出したものの,「早朝(5時40分)で周辺に人がほとんどいなかったことが幸いした」とのことだ。100万㍑の水といえば,重量は約1000㌧。これが金属片やガラスと一緒に飛び散ったわけで,もし,ロビーやホテルの前の通りに大勢人がいる時間帯だったら,死者が出ていたかもしれない。ガラスの継ぎ目の接着剤が劣化していたのではとの報道もあるが,原因はまだ特定できていない。

 話は変わって,ガソリンの漏洩事故。今年9月に北海道・室蘭市のエネオス系GSの敷地の地下水から,最大で国の基準の510倍にあたる有害物質のベンゼンが検出された。すでに6月に,周辺住民から「水道水から油のにおいがする」との住民からの相談があり,市が調査した結果,水道水から国の基準の2倍にあたるベンゼンが検出されていた。この手の事故は,GS業界では何年に一度かは起きているが,今回は対応の遅れもあって,深刻の度合いを深めている。

 9月から10月にかけて水道水を利用した住民に健康調査を行ったところ,調査に応じた33人のうち4人の尿からベンゼンが体内に入ると現れるフェノール値が極めて高い濃度で検出されたという。しかも,そのうちの一人が骨髄性白血病を発症しており,健康への影響を評価する委員会の委員長が「(ベンゼンと)関連性がないと言い切ることにはならない。転出された方々に対する調査も必要」とコメントするに及んで,全国メディアがセンセーショナルに報じ,大騒ぎとなっている。2回目の健康調査は来年1月に実施されるとのこと。

 GS経営者にとってはまさに悪夢のような出来事だ。こんなことにならないよう,GSでは毎日タンク残量と販売量を突き合わせ,定期的な漏洩検査を行っているわけだが,所詮は人間が作ったもの。水槽であれ,燃料タンクであれ,いつかは穴が開くか,ヒビが入るわけで,2011年には消防法改正によりGSの地下タンクは40年を超える前に改修することが義務付けられた。これによりGSの減少傾向に一段と拍車がかかった。だがこの法改正がなければ,土壌汚染事故はいまの何倍も発生していたかもしれない。

 漏洩事故と言えば,27年前の12月8日,福井県敦賀市にある高速増殖炉「もんじゅ」で,冷却系配管からナトリウムの漏洩事故が発生。その後も事故や不祥事が相次ぎ,とうとう6年前の12月21日に一度も本格稼働することなく廃炉が正式決定された。それまでにつぎ込まれた国費は約一兆円。その後も維持管理に一日約5000万円を費やしている。いまも廃墟から税金が漏れ出ているというわけ。

 漏出事故は地上に限ったことではない。NASAによると,15日,ISS(国際宇宙ステーション)にドッキング中のロシア宇宙船「ソユーズ」から冷却材とみられる物質の漏洩が確認されたとのこと。ISSの状態に異常はなく,若田光一飛行士をはじめクルー7名も無事だそうだが,ソユーズ関連ではこれまでにも空気漏れ事故,ドッキング時の誤噴射による事故等立て続けに問題を引き起こしている。SF映画を数えきれないほど観てきた私としては,そのうちとんでもない事故が起きるんじゃないかと…。

 水が漏れる,ガソリンが漏れる,放射能が漏れる,情報が洩れる,不満が漏れる…世の中いたるところで,あらゆるものがヒタヒタと,チョロチョロと,時にはドバッと漏れる。本当に危険な時代になったものだ。

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