セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.933『1円オーソリ』

GS業界・セルフシステム

2023-01-23

 『ガソリンスタンドで,銀行口座から即時決済する「デビットカード」を使って,外国人グループがタイヤなどの高額商品をだまし取る不正取引が多発していることが15日までに分かった。少なくとも計約9千万円分の被害が産経新聞の取材で判明した。給油の決済で行われる「1円オーソリ」という特殊な承認手続きを悪用する新手の不正で,被害が広がっている恐れがある』─1月15日付「産経新聞」。

 産経新聞の独自取材による記事なのだが,少々わかりにくい。そもそも,デビットカード(以下,Dカード)というのは,銀行口座と紐付けされていて,口座にある金額の範囲内でしか買い物ができないはずなのに,なぜこんなことになるのか。これはGSという店舗の特殊性と関係がある。GSは商品を購入,つまり給油し終えるまで購入額が確定しない。だから,本来Dカードでの決済ができないはずなのに,それができてしまうところが今回の事件のキモといえる。

 GSでのDカード決済を可能にするための仕組みが「1円オーソリ」なるものだ。「オーソリ」とは承認(オーソリゼーション)の略で,決済カードの有効性を確認するためのシステム手続き。クレジットカードの場合,決済端末を使ってカード情報をカード会社に送信し,承認されれば幾らでも給油できる。しかし,Dカードの場合は,口座残高内で収まるかどうか,給油が終わってみなければわからないので,本来は承認できないのだが,1円で有効性を確認し,決済後に実額のデータに書き換えて処理するという方法で給油を許可してしまうのだ。

 “えっ? その人の口座に購入分のお金があるかどうか分からないのに承認しちゃうの?”─そうなのだ。つまり「1円オーソリ」というのは,簡単に言うと“1円払えれば残りも決済できるだろう”という,いまどき奇特というか,お人よしというか,いいかげんというか…そういうシステムなのだ。そのため,即日払いのはずが,GSに限っては,1~2週間後の引き落としとなる。つまり,Dカードも,給油に関してはクレジットカードと同じ決済方式を取っているというわけ。しかも,Dカードはクレジットのような事前審査などせず簡単に作れるうえ,とりあえず口座に1円入っていれば給油できちゃうのだ。

 件の詐欺グループは,この仕組みを悪用して,あちこちのGSで給油していたのかと思いきや,そうではなかった。彼らはGSで,給油ではなく,タイヤを大量に購入したとのこと。産経の記事は,こう報じている。『実際に被害のあった茨城県のGSによると,同店には令和2年春から8人程度の外国人グループがメンバーを変えながら繰り返し来店。デビットカードでタイヤの購入を繰り返した。半年後に突然,スリランカの銀行が日本側に数千万円分の返金請求を行い,問題が発覚した』。

 GS側も,外国人グループが繰り返し来店し,購入金額も増えていったため,システムを提供している石油元売に確認を取ったそうだが,「システムが通れば大丈夫」と言われ,入金も適切に行われたことから取引を続けたという。ところが,半年後に代金が引き落としできないことが判明したうえ,GSでの大失態が明らかになった。実は,Dカードの規約では,給油以外の店内販売では「1円オーソリ」による決済をしてはいけないと定められていることを見落としていたのだ!これを事由として,スリランカの銀行は決済仲介会社に,決済仲介会社は石油元売に,石油元売はGSに弁済を求めているとのこと。GSからすれば,タイヤの代金と弁済額の二重の損失をかぶることになるが,前述のように元売会社に“承認”を取り付けていたわけだから,GSだけに責任を負わせるのはちっとばかし酷ではないか。

 これは私の推測だが,給油以外にも「1円オーソリ」を利用して油外商品を店内販売しているGSは結構あるんじゃないだろうか。石油元売にも,Dカードにそんな規定があることなど知らなかった人が大勢いたんじゃないか。いずれにせよ,今回の事件を機に,GSでのDカード利用はかなり制約されるか,使用不可となってしまうかもしれない。言わんこっちゃない。キャッシュレス,キャッシュレスと草木もなびくご時勢だが,そこにはシステムの盲点を突いて商品や代金を掠め取ろうとする犯罪者たちが罠が張りめぐらせている。やっぱ,GSでの代金決済は前払い方式に限る…。

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