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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.934『戦車戦』

社会・国際

2023-01-30

 1941年,前年までに西ヨーロッパの大半を支配化に収めたナチス・ドイツは,不可侵条約を破ってソヴィエト連邦に侵攻する。不敗を誇る独軍の戦法は,「電撃戦」と呼ばれる,機械化部隊を主軸とした圧倒的な攻撃だった。それまで,歩兵支援のための兵器とされていた戦車を第一線で組織的に運用することによって,どの国の軍隊にもない火力とスピードで瞬く間に相手陣地を制圧して行ったのだ。ソ連侵攻にあたり,独軍は4千輌の戦車をもって三方から急襲し,開戦後3週間でバルト,白ロシア(現ベラルーシ),ウクライナの過半を占領した。連合国はソ連の敗北は時間の問題と見た。

 ところが,破竹の進撃を続ける独軍の前に,それまで見たことのない,低くてずんぐりとしたシルエットのソ連軍戦車が姿を現わした。独軍は戦車と火砲ですぐさま攻撃するも,その戦車は砲弾を跳ね返し,体型に似合わぬスピードで走行し,大口径の火砲で独軍戦車を次々に破壊していった。独軍はこの新型戦車の登場によって停滞を余儀なくされ,冬将軍の到来を機に反攻に転じたソ連軍の前に敗れることとなった。

 その戦車の名は「T-34」。多くのロシア人にとってその名は,日本人が「ゼロ戦」に抱く感情に近いものがあるという。もし,T-34がなかったら,ロシアはヒトラーのものになっていたと考えられており,祖国防衛の象徴的な存在とされている。その戦車強国ロシアが,いまや窮地に立たされているらしい。『ドイツ政府は24日,攻撃力の高い独製主力戦車「レオパルト2」をウクライナに供与する方針を固めた。他国による引き渡しも認める構え。すでにポーランドが自国軍の保有する戦車供与の手続きに入っているほか,フィンランドなど他の保有国もウクライナへの供与に前向きな姿勢を示している』─1月25日付「時事通信」。

 日本でもこのところ,連日このニュースが報じられているが,「戦車」の話題がこんなにも取り上げられるなんて,報道史上前代未聞の出来事だろう。ゼレンスキー宇大統領は,「もっと早く,もっとたくさんのレオパルト2を提供してくれ!」とNATO加盟国に訴えているが,一体どんな戦車なのか。ネット記事などによれば,火力,装甲,スピードなどすべてにおいてロシアの主力戦車T-72を上回っているうえ,故障が少なく,燃費が良いとのこと。とはいえ,そこは戦車。ディーゼルエンジンのレオ2の燃費は平地でリッター0.5㌔。それでも,タービンエンジンを搭載する米軍「エイブラムス」の0.25㌔/㍑に比べれば半分程度で済むそうだ。

 それはともかく,独ソ戦から80年余りが経って,再びドイツとロシアの戦車が砲火を交えることになろうとは,悪夢以外の何ものでもない。T-34の登場に衝撃を受けた独軍は,これに対抗すべく「パンター」,「ティーガー」といった大型戦車を開発・投入するも,劣勢を挽回するには至らなかった。現在のロシア軍の最新鋭戦車「T-14 アルマータ」は,せいぜい数十両の配備にとどまると見られている。しかし,軍事評論家のあいだでは「10年に1度の最も革命的な戦車」と評されているそうで,かつてのT-34のように,戦局を一変させるような力を発揮するかもしれない。いずれにせよ,まだまだ破壊と殺戮が続くことだけは確かだ。

 戦車が登場したのは第一次大戦の時だ。後に「西部戦線異状なし」を著したドイツの作家レマルクは,従軍し,戦場で戦車に遭遇した時のことをこう記している。『鉄板の鎧に身を固め長い列を作って転がって来る機械。人間を押し潰し傷つくことのない鋼鉄の獣。僕らはこの戦車を見ると自分の薄い皮膚の中に小さく縮こまる様な気持ちになった。その驚くべき重さの前には僕らの腕は藁の様にか弱いものだ。手榴弾はマッチぐらいだろう。この戦車というやつは何よりも戦争の恐ろしさそのものに見えた』─。

 折りしも先日,太平洋戦争の激戦地 ペリリュー島内で発掘された旧日本軍の戦車の中から人骨の一部が見つかったというニュースをテレビで観た。日本軍は2ヶ月半にも及ぶゲリラ戦で1万人以上が戦死した。貧弱な装甲の日本軍戦車は米軍火砲の前に歯が立たず,一方の日本軍は米軍戦車に対し,兵士が爆弾を抱いて肉弾攻撃を敢行したという。戦車のニュースで,ミリタリーマニアは大いに盛り上がっているかもしれないが,せいぜい「タミヤ」のプラモでジオラマでも作って喜んでいればよろしかろう。実際の戦車戦は,炎と血にまみれた地獄そのものなのだ。

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