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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.937『風船』

社会・国際

2023-02-20

 米国の領空に中国の飛行物体が飛来したため戦闘機が出動しこれを撃墜した─。そう聞かされると,一気に緊張が走りそうなものだが,その“飛行物体”がふわふわと漂う気球と聞くと,何となく“な~んだ”という気分になるのは,気球が漂わせるのんびりとしたイメージゆえなのか…。

 気球はどうやら偵察用のものらしいが,2月4日以降10日間で計4基の気球が米軍によって撃墜されるという異常事態に発展しており,そのうちの1基は米国の気球愛好家が飛ばしたものである可能性が高いとのこと。米国が気球にかなり神経を尖らせていることが伺える。

 たかが気球,されど気球。もし気球に殺傷力の高い細菌などが充満していて,米国上空で飛散していたらと想像すると笑い事ではなくなる。その辺のところはちゃんと調べたうえで撃墜したんだろうけれど…。しかも,気球を打ち落とすために使用した空対空ミサイルは,1発40万㌦(約5千万円)。これらを勘案して,撃墜するのではなく,捕獲する手立てはなかったのかなぁと思ったりする。

 日本でも中国から飛んできたと見られる気球が目撃されており,政府・与党内では早速,武器使用の要件を見直し,迎撃体制をとるべしとの議論が沸きあがっているとのこと。気球,つまりは「風船」が,これほどまでに人々をおののかせ,いきり立たせようとは,このあいだまで想像だにしなかった。

 そういえば,子どもの頃は,アドバルーンが浮いていたり,飛行船が飛んでいたりしていたが,最近はまったく見なくなった。ちなみに“アドバルーン”は和製英語。気球自体はフランスで発明されたが,そこに広告コピーを書いた布をぶら下げるという宣伝手法は日本で確立されたそうだ。最初のアドバルーンは,1913年(大正2年)に,大阪に本社を置く「中山太陽堂」(現・クラブコスメチックス)という化粧品メーカーが,自社製品の宣伝のために上げたものだという。戦後の高度成長期にはアドバルーンの会社が東京だけで40社あったが,高層ビルが増えて目立たなくなったうえ,法規制も進んだため,いまではほぼ絶滅してしまった。

GSでも,オープンイベントなどでキャノピーの上にバルーンを掲げる宣伝手法が一時期流行ったが,あれ,レンタル料が馬鹿にならないうえ,とにかく保守管理がめんどくさい。それにGSでは,価格看板以上に沿道のドライバーの目を引くアイテムはない。でっかいバルーンにコストをかけるより,その分ガソリンを安く売ったほうがずっと喜ばれる─というわけで,GSの広告宣伝は昨今すっかりしぼんでしまった。

 閑話休題。21世紀になって気球を戦略兵器として使用するなんて…。よもや地球環境に配慮した訳でもあるまい。アナリストたちの中には,実現すれば5年ぶりとなる米中会談を控えていた中国指導部が,このタイミングで米国を挑発するようなことを許すのは不可解で,意図せず気球がコースが外れてしまっただけではないか。もしかしたら気球の存在そのものをを知らなかったので慌てたのではないか。あるいは,承知していたが,見つからないとタカを括っていたのではないか。さらには,所詮は“気球”だから米国もそんなに怒らないだろうと踏んでいた…などなど,様々な見解が。

 一方,米国はかつて気球によって本土を攻撃された経験がある。第二次大戦末期,日本軍は「ふ号兵器」と呼ばれる直径10㍍の風船爆弾を開発した。風船には,焼夷弾2発と15㌔爆弾1発が積載され,偏西風に乗って,40時間ほどで米本土に到達したという。1944年11月から5ヵ月間で約9300発が放たれ,そのうち約1000発が米本土に到達,オレゴン州ではピクニック中の教師と生徒の6人が亡くなった。風船爆弾による米国の被害は小規模だったが,それまで本土を空襲されたことのなかった米国民は大きなショックを受けた。そして,2001年に米国はあの「9.11」を経験する。たとえ気球でも,他国が我々の頭上を勝手に飛ぶことは断じて許さないという米国の強硬な反応は,中国にとって予想外だったのかもしれない。

 冒頭でも書いたとおり,風まかせで空を漂う気球や風船は,「平和」をイメージさせるが,安全保障の世界においては,実用兵器の一つとなり得ることを今回の事件で思い知らされた。それにしても,“ボクの風船をあの子が割った”とケンカになるのは子どもの世界だけだと思っていたが…。

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