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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.944『タイタニック』

オピニオン

2023-04-10

 4月14日は,世界中の人々に“ああ,きょうあの出来事が起こったのか~”と想起させる日である。1912年のこの日,初航海中のイギリスの大型客船「タイタニック」号が,北大西洋ニューファントランド沖で氷山に衝突し,翌日未明にかけて沈没した。

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 「想起させる」と書いたが,いまから111年も前の出来事。この当時をリアルタイムで知る人はもはや残っていない。それにもかかわらず“ああ,あの日”と私たちに感慨をもたらすのはやはりあの映画の存在ではあるまいか。1997年に公開された『タイタニック』は,普段映画を観ない人たちをも劇場に向かわせ,全世界で空前のヒットとなった。

 今年2月,「25周年リマスター版」が日本で公開されたが,ビデオやネットでいつでも観られるにもかかわらず,公開3日間で興行収入1億3千万円,7万人を動員するという脅威的ヒットを記録したという。恐らく,観客の大半はこの映画を1度は観て,是非とも大画面で堪能したいと来場したのだろう。事程左様にこの映画は観客を魅了してやまない稀有な作品と言える。

 タイタニック遭難事故は世界に大きな衝撃を与え,1ヵ月後には生存者であった米国女優によるメロドラマが製作・公開され大ヒットしたという。その後も幾度となく映画化されたこの物語は,映画でしか表現できないスペクタキュラーな要素が詰まっている。とはいえ’97年版「タイタニック」が絶大な支持を得た最大の要因は,階級社会の縮図ともいえる船内で繰り広げられた上流階級の娘ローズと貧困層の青年ジャックとのラブロマンス,とりわけジャックを演じた,当時23歳のレオナルド・ディカプリオの魅力に負うところが大きい。

 私個人は,この映画のリアルで圧倒的な映像に目を見張りつつも,階級差の恋というあまりにベタなメインストーリーに気恥ずかしくなってしまう。観て損はないけれど,何度も観たくなる様な名作とは思えない。どちらかというと,タイタニック遭難事故そのものに興味がある。

 長さが270㍍ 幅28㍍ 高さ53㍍のタイタニック号は,もはや一つの“街”と言えるほどの大きさ。レストランはもちろんプールやテニスコート,小さなゴルフ場まであったそうで,現代と比べても遜色のない1912年当時の技術力の高さに驚かされる。安全対策にも力が入れられており,船体は防水隔壁で16の区画に区分され,そのうちの4区画まで浸水しても沈没しない構造になっていたうえ,隔壁は船橋から遠隔操作で即時閉鎖することができた。こうしたことから,船長 E・J・スミス中佐は「この船が致命的な惨事に見舞われるなどということは私には考えられない。近代造船術はそれを凌駕した」と語っていたという。

 タイタニック号を所有するW・S・ライン社は,欧州から米国へ移民を輸送するドル箱航路であった北大西洋航路で優位に立つために,大型化と共にスピードにもこだわった。そのため,航行中に氷山に関する警告が他の船から何度か送信されていたにもかかわらず最高速度で航行を続けたため,氷山を回避できず衝突,一瞬で5区画が浸水,2時間40分後の15日2時20分に沈没,乗員乗客1500名以上が海の藻屑となった。

 タイタニック号に乗員乗客すべてを収容する救命ボートが備わっていなかったことは有名だが,それでも1,178人分のボートがあった。それなのに,生存者が700人にとどまったのは“不沈”船に対する誤った確信のせいで,最初に降ろされた救命艇の幾槽かは定員の半分ほどしか乗せずに船を離れてしまったからだ。1912年4月19日付のニューヨーク・タイムズ紙には生存者の次のような証言が載せられている。

『乗組員はすべての人に救命艇に乗り込むよう勧めたが,だれも急いでそうしようとはしなかった。危険はないと考えられており,船を離れれば,数時間後にはわざわざボートを漕いで船まで戻って来なければならなくなり,物笑いの種になるというのが一般的な考え方であった。ほとんどの人は最後の瞬間まで船の安全性に確信を置いていた』─。

 これが,タイタニック遭難事故から学ぶべきもっとも重要な教訓だ。私たちはこの何年かで揺らぐことなどないと思われていた秩序や体制が大きく傾くのを目撃してきた。安全や健康や環境がこれほどまでに脅かされる時代になるとだれが予想し得ただろうか。まさに,社会が沈没するかもしれない危機的な時代に生きているとは言えないだろうか。4月14日は,タイタニック号の悲劇に思いをはせながら,自分たちは“救命ボート”に乗ることができるだろうか,そのためにいまからどんな備えをしておくべきだろうかと自問しながら過ごしてみたい。

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