セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.945『3台に2台がEV?』

政治・経済

2023-04-17

 『バイデン米政権が12日公表した大幅な排出ガス削減案は,来年の大統領選で自動車生産の未来が争点となる可能性がある中,急ピッチで確定作業が進められる見通しだ。EPA(環境保護局)が発表した規制案はCO2排出量を2032年までに26年比56㌫削減する内容で,10年以内に新車販売の3台に2台がEVになる可能性があるという。この案を巡っては,民主党が消費者の燃料補給コストを節約し,米国の製造業を活性化させると主張する一方,共和党は自動車が高価になり国民がガソリン車を買えなくなると非難している』─4月13日付「ロイター」。

 バイデン大統領は,22年にオバマ政権時代の規則を復活させ,26年までに自動車排出ガスを28.3㌫削減することを義務付けるとし,30年までに新車の50㌫をEVにすることを求めているが,この度のEPA案の要件を自動車メーカーが満たすためにはEVを30年までに60㌫,32年までに67㌫生産しなければならないとのことで,かなり野心的と言える。しかし,22年の米販売台数に占めるEVの割合はわずか5.8㌫。当初の計画達成すらおぼつかない状況にもかかわらず,さらにハードルを上げたのはなぜ?

 EUでは先月,2035年以降,すべての新車をEVにするとしていた法案が,それまでに自国の自動車メーカーがすべての生産ラインをEVに変換させるには,時間も人手もお金も足らないと悟ったドイツの土壇場での反対によって,「合成燃料で走る従来型のエンジン車も含める」という内容に書き替えられてしまった。例えて言うなら,「アナゴもうな丼の具材として認めましょう」みたいな話。“やっぱ自動車のオール電化は無理”との空気が漂い始めた矢先に米国がぶち上げたアドバルーンは,冒頭記事のとおり来年の大統領選挙を意識してのことのようだ。

 というのも,独自動車業界がEV化にブレーキを掛けたのとは対照的に,米国の自動車業界団体 AAI(米国自動車イノベーション協会)は,EVへのシフトを支持すると表明したうえで,「充電インフラ,サプライチェーン,送電網の強靭性,低炭素燃料や重要鉱物の入手のしやすさなど,車両以外の要因が基準達成の可能性を左右する」(J・ボゼラCEO)として,移行のスピードを加速させるよう訴えている。つまり,米国の自動車業界は,ドイツが怖気づき,日本はいまだ様子見というこの隙に,EV化を米国産業界の一大イノベーションと位置付け,最大のライバル・中国との“EV戦争”に互して行こうとしているのだ。

 脱炭素を推進する民主党並びにバイデン政権は,この自動車業界の戦略に乗っかり,支持を得んがために,EV目標をあえて上方修正したと見られている。また,今回の規制案によって自動車メーカー各社は32年までに1台当たり約1200㌦のコストがかかるが,所有者は燃料費や維持費などで8年間で平均9000㌦以上のコストを節約できるとのことで,こうしたメリットを有権者に訴えてゆくようだ。さらに,脱炭素を加速させることで,共和党の支持基盤である石油業界を力を弱めようとの目論みも─。

 一方,22年のEVの世界販売は中国メーカーが4割を占め,米国勢が3割,欧州が2割と続く中,日本製EVは5㌫以下と,大きく水をあけられている。そのため,日本は脱炭素の数値目標を達成することが目標であって,そのためならEVに限らず,HVやPHVも含めればいいじゃないかという考えを来月のG7サミットでも主張すると見られている。つまり,「うなぎの風味や食感が楽しめるのであれば,サバやイワシを使ってもいいし,何なら豆腐やはんぺんを加工してもいいじゃないか」というわけ。

 しかし,EV化をテコに自動車市場の主導権を握ろうとする欧米は,議長国の日本に自国のルールに沿ったコミュニケを出すよう突き上げてくると思われる。仮に米国に押し切られるようなことになると,日本の自動車メーカーは大きな計画修正を迫られることになる。かつて,1970年に米国は厳しい排ガス規制「マスキー法」を制定,世界の自動車メーカーが達成不可能だと訴える中,本田宗一郎率いるホンダは,CVCCエンジンを開発,世界で初めてマスキー法をクリアした。果たして,このたび日本の自動車メーカーは新たな挑戦にどのように応えるだろうか。当然その結果は,日本のガソリンスタンド業界の命運をも左右することになる。

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