セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.948『不正車検』

社会・国際

2023-05-08

 中古車販売大手「ビッグモーター」が,工賃の水増しや保険金の過剰請求のために,客の車のタイヤにわざと穴をあけていたという元整備員による告発がネット上で波紋を呼んでいる。同社は,2018年12月に横浜市の整備工場において,整備士がブレーキパッドの残量を偽装していたとして資格が取り消される事態となり,その後も同様の不正整備が行われていたことが判明したため,2019年1月には国土交通省が,全国の店舗に対して営業停止命令を出すなどの厳しい措置を取ることとなった。これを受けビッグモーターは自主的に全国の店舗で車両点検を実施し,不正整備が行われた車両の修理や補償に努めると発表したが,昨年2月にはびわ湖守山店が,不正改造などを理由に近畿運輸局から事業停止処分を受け,今年2月には佐賀・唐津店が,3月には熊本・浜線店がそれぞれ車検の不正などを理由に九州運輸局から適合証の交付停止や指定工場の取り消し処分を受けている。

 今回,その熊本・浜線店で約2年,整備部門で勤務していたという男性が,21年6月に「仕事を覚えるため」と偽り,当時の工場長がタイヤのパンクを自然に見せるための“レクチャー”をしながらネジで穴を開ける様子を撮影した動画と共に,不正行為が告発されたという。毎月の売上ノルマを達成するために,こうした行為が常態化していたとのことだが,これが一部の店舗で一部の従業員が行ったことなのか,組織的・継続的に行われたことなのか…。いずれにせよ,遵法意識の低い会社であることだけは確かだ。

 今回の事案に限らず,自動車整備関連の不正行為は後を絶たない。とりわけ,車検の不正は単なるミスから意図的なものまで,年中行事のように起きている。トヨタやホンダの系列販売会社でも,検査項目の一部を行っていなかったことが発覚している。整備事業者が検査自体を行わず車検を通せば,労せず手数料を得られる。検査すべき項目をやらなければ,それだけ手間と時間も短縮できる。つまり,手抜きをすればするほど儲かる仕組みになっていることが問題なのだとの指摘は以前からある。とはいえ,国内の自動車を民間に頼らず,すべてお上が検査するなんてことは現実的ではない。結局,整備業者の“良心”にかかっているのだ。

 日本車の品質は世界最高ともいわれるが,車検によって故障が未然に防がれている面も大きい。自動運転や運転支援システムなど自動車の技術が高度化する中で,定められた検査項目を守る重要性は増している。しかし,業界団体の調べでは,車の保有台数は昨年末で約8千2百万台なのに対し,自動車の整備要員は約40万人で横ばい。慢性的な人手不足の中でスピードを売りにした車検が増えている。営業ノルマも厳しく,次々にお客さんを呼び込み,車検をドンドンこなしてゆかなければならない。手抜きは起こるべくして起こったと指摘する専門家もいる。

 毎年「こどもの日」に合わせて総務省が子供の数を発表するが,先月1日現在の15歳未満の数は1435万人で,去年より30万人減ったとのこと。42年連続の減少。将来の整備士を育成する自動車専門学校に入学する生徒数も,この15年間で半分ほどに減少し,いまでは6千人ほど。また,整備士の初任給の年収は,日本の平均と比べて100万円ぐらい安いという。若者の“クルマ離れ”も手伝い,2022年の整備士の平均年齢は45.7歳と高齢化が進んでいる。整備士不足と不正防止の観点から,この分野においてもAIの導入は不可避だろう。実際,「ボルボ」は米国東海岸の系列ディーラーに,車体の表面や下回り,タイヤの状態などを数秒でチェックするAIカメラシステムを試験的に導入すると発表した。このシステムを開発したのはイスラエルの「ユーブイアイ」というスタートアップ企業で,出資者には豊田通商も名を連ねている。

 とにかく,自動車整備の手抜きや不正行為はけしからんことだ。私たちは車にいわば命を預けているのだから。「ビッグモーター」のホームページQ&Aコーナーには『車検業者のほとんどが誠実であっても,少ないボッタクリ業者に引っかかってしまう可能性もゼロではないため,しっかり対策しておく必要があります』という親切なアドバイスが掲載されているが,ネットスラングでは,こういう場合“おまいう”(「お前が言うな」の意)と言うんだそうだ。

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