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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.949『AIが描くシナリオ』

エンタメ・スポーツ

2023-05-15

 日本ではあまり報じられていないが,米ハリウッドの脚本家約1万1千人でつくるWGA(全米脚本家組合)が今月2日からストライキに突入しており,15日現在も続いている。そのため,多くの映画や人気テレビシリーズの制作が次々にストップしており,米国のお茶の間は再放送などでしのいでいるという。2007年から2008年にかけての前回のストは100日続き,ロサンゼルス市は30億ドルもの損失を被ったといわれている。

 エンタメ大国アメリカを揺るがす15年ぶりのストライキ。バイデン大統領も「脚本家ができるだけ早く公正な合意を得られるよう望む」と述べ,懸念を示しているが,そもそも今回のストはなぜ起きたのか。1つは動画配信サービスの台頭だ。従来のテレビ放送では,再放送や海外放映のたびに脚本家も二次利用料を得ていたが,「Netflix」や「Amazon」など新興配信会社は数年単位で作品の権利を独占することが多く,脚本家は安定した報酬を得るのが難しくなった。WGAは,賃上げと長期雇用を求めているが,今回の争点はそれだけではない。それはAIの登場だ。

 WGAはAIを調査などに使うことには反対していない。しかし,今後AIが既存の作品を学習したうえで新たなものをつくるようなことになれば,「与えられた物の再利用だ」として,作品の原作づくりにはAIを関わらせないよう求めたが,こちらも制作会社側との合意が得られなかった。実際,人の指示に従って文章や画像を自動生成するAIが開発されたことで,幅広いクリエーター職が影響を受ける可能性があり,将来的には世界で3億人の雇用が脅かされるとの予測もある。WGAは「AI脚本家」による失業を防ごうと,今回のストで先手を打とうとしたわけだが,果たしてどうなるか。

 それにしても,AIはどこまで人間に近づくことができるのだろう。皮肉なことに,いまストに参加している脚本家たちは,これまで,「AIと共存する未来」を題材にした様々なストーリーを生み出してきた人々でもある。例えば,SF映画の古典『2001年宇宙の旅』(’68)のS・キューブリックが原案を手がけ,彼の死後,S・スピルバーグによって製作された,そのものずばりの『A.I.』(’01)という映画がある。

 外見は人間そっくりのAIロボットたちが人間をサポートする世界で,実験的に“愛”を学習するようプログラミングされたデイヴィッドという少年型ロボットが,不治の病のため眠ったままの我が子の代わりとして夫婦に引き取られる。最初は気味悪がっていた夫婦も徐々にデイビッドに愛情を抱き始め,本当の息子のように可愛がるようになった時,こん睡状態だった実の子が奇跡的に回復する。二人の息子のあいだに生まれる緊張がやがて悲しくも美しいドラマへと発展する…。

 老若男女が楽しめる娯楽映画を得意とするスピルバーグの作品としてはやや難解で,結末も不明瞭ということで当時米国では不評だったようだが,AIが身近なものとなったいま観なおしてみると,AIに対する人間の身勝手な考え方が垣間見え,興味深い。所詮人間がAIに求める役割は,文句ひとつ言わず従順に欲求を満たしてくれる“道具”に過ぎない。ところが,もっと高度で,もっと便利な道具にしようと改良を重ねるうちに,いつしか自分たちの生活や存在を脅かすようになった途端,敵視する─。いま,ハリウッドで起きている出来事は,まさしく映画作家たちが予言した未来のひとつの成就ともいえる。

 「Google」の研究部門がスタンフォード大学などと共に行なった研究によれば,会話型AIを成長させていくと,会話以外の新能力を訓練なしに突然獲得する事象が確認されたという。また,AIが大規模化すると,判断や思考の偏りが大きくなる傾向にあることも判明したとのこと。もし本当だとしたら,人間が何でもかんでもAIにやらせていると,ある日突然主従関係が逆転し,コンピュターが人間を支配し,ロボットが人間を屈服させるようになるということか。『マトリックス』や『ターミネーター』のような未来が現実化する─。すでにAIは,そんなシナリオを秘かに書きはじめているのかも…。

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