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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.985『史上最大の冤罪』

社会・国際

2024-01-29

 『富士通の会計システム「ホライゾン」の欠陥により英国各地の郵便局長ら700人以上が詐欺罪などで刑事訴追された英史上最大規模の冤罪事件で,富士通の欧州事業を統括するP・パターソン執行役員が16日,英議会下院の委員会で証言した。パターソン氏は事件について「恐るべき誤審だった」と述べたうえで,冤罪被害者に「誠に申し訳ない」と謝罪した』─1月17日付「毎日新聞」。

 この欠陥により,実際には郵便局の口座に現金があるにもかかわらず,「現金が不足している」と誤って表示されるという重大なシステムトラブルが15年以上も続いていた。このシステムトラブルに気づかず,民間委託郵便局長ら736人が不足分の現金を横領したなどの疑いをかけられ,236人もの元局長が無実の罪で投獄され,破産や離婚,自殺に追い込まれた人々もいる。

 そもそも「ホライズン」は富士通が一から開発したシステムではない。英国の国策IT企業ICLが,英国の郵便事業の元締めであるポストオフィス・リミテッドから1996年に受注,開発した代物で,富士通が1998年にICLを完全子会社化したため,翌年に納入を果たした際には,「ホライズン」は富士通製品になっていたというわけ。だが,富士通の元エンジニアの証言によれば,「ホライズン」は導入当初から「バグだらけのクソ袋」だったといい,件のパターソン氏も,「当初からバグやエラーは存在し,関係者にとっては周知の事実だった。ポストオフィスにも知らされていた」と19日の公聴会で証言している。

 にもかかわらず,事件が深刻化する中で,富士通,ポストオフィス,そして英国政府は揃って頬かむりを続け,無実の人々に罪を被せてきたわけで,まったく酷い話だなと思うと同時に,テクノロジー過信の危険性を改めて思い知らされた感がある。ハードであれソフトであれ,元を正せば人間が設計・製造するものであり,ミスやエラーは付きものだということ。計量・計算・精算など業務のほとんどすべてをコンピューターに頼っているGS店舗も,時々システムが正しく機能しているかチェックしなくちゃいけない。

 ただし,事故や損失を引き起こす最大の“バグ”は,実は人間の脳内に存在する。正しいこと,善いことを行いたいという気持ちとは裏腹に,弱さや怖れや欲得に負けて間違ったことを行ってしまうのだ。今回の冤罪事件にせよ,ダイハツの認証試験のごまかしにせよ,ビッグモーターと損保ジャパンによる保険金の不正請求にせよ,すべて,毎秒1億ビットという情報処理能力を持った人間の脳が“バグった”結果生じたことと言える。「良心」という修正ソフトが正しく働いていれば取り除けたバグだったのだが…。

 それにしても,今回の冤罪事件が,いまになって大騒ぎとなっているのはなぜか。それは,濡れ衣を着せられた郵便局長の一人が,ポストオフィスに法廷闘争を挑み,2019年に無罪判決を勝ち取った実話を描いた『ミスター・ベイツvs.ポストオフィス』という全4話のテレビドラマが新年早々英国で放映され,大反響を呼んだためだ。国内の同情と憤怒に押されるかたちで,スナク首相は把握している全被害者を無罪とし,補償を行うための新しい法律を議会で約束した。報道ジャーナリストや弁護士・政治家が10年以上かかってもできなかったことを,1つのテレビ番組が1週間で成し遂げるたことに,エンタメ業界は衝撃を受けているという。

 英国在住の作家 ブレイディみかこ氏によると,英国には,現在進行中の問題を告発するドラマが多いという。『それらは“ああ泣いた”“よかった”と床に就き,明日からまた腐った現実に戻るためのドラマではない。腐った現実そのものを変えるためのドラマだ。こうした番組は「面倒なことになるかも」という覚悟がなければ作れない。英国のテレビを見ていると,自由と覚悟は同義語に思える』─「AERA」 1月29日号。

 新年早々,ノンフィクションの社会派ドラマを放映するなんて,日本では絶対無理だろう。エンタメにおける民度の違いを痛感させられる。欧米には,国家の陰謀や企業の不正などを人物・団体すべて実名で,しかも当事者が存命中にもかかわらず告発した映画やテレビドラマの傑作がたくさんある。それに引き換えいまの日本映画なんて,世界で通用するのは「ゴジラ」と「ジブリ」だけという体たらくだ。

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