セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.956『EKB』

セルフ雑記帳

2023-07-03

 7月から電動キックボード(以下EKB)の規制が緩和された。16歳以上であれば運転免許不要で乗れるようになった。最高時速は20㌔で原則車道走行だが,自転車が通行できる歩道に限り,時速6キロ以下で緑色のランプを点滅させれば通行できる。ヘルメットは“努力義務”。普及を推進する経済産業省の担当者は,『観光地での訪問客向けの貸し出しを含め,「幅広いニーズへの対応が進む」と見込んでいる』(7月1日付「時事通信」)とのことだ。

 リミッターを取り付けない限り20㌔なんて制限時速が守られるとは思えないし,交通ルールをよく知らない未成年や外国人が,イヤホンで音楽を聴きながら,車列の合間を縫ってひょいひょい走った時には,人身事故が多発すること必至では? 事実,“キックボード先進国”フランスのパリでは,事故の増加や利用者のマナーの悪さが問題となり,ことし4月の住民投票の結果を受け,EKBのシェアリングサービスを8月末で廃止する。2018年導入以降急速に普及してきたが,わずか5年で「パリはEKBのレンタルサービスを廃止するヨーロッパ初の首都となる」と地元メディアは報じている。イタリアでもEKBの規制が強化される。利用者は保険に加入しなければならず,ヘルメットの着用も義務付けられ,歩道への駐車も禁止されるとのこと。

 ただ,今回のパリでの住民投票,90㌫がEKBレンタルの禁止を支持したとはいえ,投票者数は約10万人で,登録有権者の約7.5㌫に過ぎず,民意を反映したとは言い難いとしてレンタル業者は反発,サービスを廃止すれば40万人の利用者に影響が及び,公共交通機関の混雑,個人の車の増加を引き起こすと訴えている。

 さて,周回遅れでEKB規制緩和に踏み切った日本。レンタル業者は“ちょい乗り”市場の拡大に期待を寄せている。東京や大阪など大都市を中心に約3000ヶ所の貸出場所を設置している「ループ」というシェアリングサービス大手は,25年中に3倍以上の約1万ヶ所へと増やす計画だ。出資企業にはエネオスグループの子会社も。しかし,せっかく普及しても,パリ同様,迷惑・無法走行で市民の反発を買ってしまったら元も子もないというわけで,例えばループは飲酒後の運転が発覚した場合,利用者のアカウントを停止している。都内の別の業者は,飲酒運転を防ぐため深夜0時以降の貸し出しをしていないとのこと。

 ただ,根本的には利用者の道徳心に委ねられていることに変わりないので,一部の無法者による痛ましい事故が起こるのは避けられないだろう。マスコミも,当分はEKB関連の事故や問題を頻繁に扱うだろうが,ゼロ・エミッションに向けて,EKBは突き進まざるを得ないだろう。イノベーションが普及してゆく過程では,様々な反対や障害が生じるのは当然で,それらを乗り越えて市民権を獲得してゆくものだ。実際,EKBの普及を推し進めた結果,2012から22年までに,パリの道路の交通量は33㌫も減少したという。

 果たして,東京や大阪でも同様の効果が見られるかどうか。地球環境にとっては好ましいことだが,大都市圏のGSにとってはますます厳しい状況になることを意味する。すでに東京では人口1万人あたりのGS数が0.95ヶ所(「日経新聞」調べ。以下同様)にまで減少している。全国最下位。下位には神奈川(1.35),大阪(1.5)など,人口500万人以上の都道府県が並んでいる。地元,愛知県も2.62ヶ所で,全国平均3.1ヶ所を下まわっている。この現状でEKBが普及してゆけば,都市部のGSは一段と減販へと追い込まれることになろう。

 一方,日本でEVの普及がなかなか進まない主たる事由は「充電インフラ不足」。人口1万人当たりの充電器数で国内平均は2.3基。対するフランスは6.9基と3倍の差がついているとのこと。導入補助金で設置した設備も,維持費がかかり撤去されるケースも生じている。充電インフラを拡充させる足がかりとして,まずは家庭用コンセントから充電できるEKBを普及させて,多くの人が“ちょい充電”に慣れ親しんできたところで充電インフラ整備拡充を誘発させ,いよいよEV普及を加速させる─。そして,EV社会を軌道に乗せながら,それを賄うためには,ほら,こんなに電気が必要なんですよ,だからこれからも原発を作らなきゃならないんですよ─。EKB普及の先に,そんな目論見があるんじゃないかしら…。

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