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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.955『サブマリン』

エンタメ・スポーツ

2023-06-26

 『タイタニック号の残骸を見るツアー中の潜水艇「タイタン」の破片が海底で見つかった事故で,米沿岸警備隊の幹部は22日,原因究明に向け関係国の協議が必要となり,調査の長期化は必至との見方を示した。ツアー運営会社は22日,乗っていた5人全員が「死亡した」との声明を発表,同隊も弔意を表明した』─6月23日付「共同通信」。

 タイタンは18日朝,カナダ東部沖で潜水を開始して約1時間45分後に連絡が取れなくなった。米メディアによると,潜水艦を探知する米海軍のセンサーがその直後に同じ海域で破裂音を検出しており,海軍は潜水艇が水圧でつぶされた際の音だと推測しているという。そうだとすれば,乗っていた5人は即死で,その後の大掛かりな捜索・救援活動は全く無意味だったことになるが,20日と21日に感知された“異音”は何だったんだろう。

 もし,潜水艇が航行不能の状態のまま海底に留まっていて,酸素が刻々と減ってゆく状態に置かれていたとしたら,救出を待ち続けた艇内の人たちはまさに“生き地獄ツアー”を味わった末に絶命したことになる。8日間で3500万円というツアー料金にもたまげたが,深海にせよ宇宙にせよ,本来人間が立ち入るべきではない領域に大枚払って出かけていった挙句の悲劇。科学技術への過信と過度の商業主義が招いた事故という点では,111年前のタイタニック沈没と同じといえる。

 奇しくもこの事件が起きる直前に,『潜水艦クルスクの生存者たち』という映画を観た。2000年8月に演習中に爆発を起こし沈没したロシアの原子力潜水艦「クルスク」の遭難事故を描いた海洋スペクタクル。沈没後,艦尾に避難した艦長以下23名の乗組員が,迫りくる死の恐怖の中で救出を信じて懸命にもがく姿が描かれる。結論を言えば,彼等は全員死亡した。従って,艦内で展開されるドラマは,後の現場検証や兵士たちの遺留物などの情報を基に創作されたものである。一方,クルスク乗員の救出をめぐる海上での物語はすべて実話だ。

 当初,ロシア海軍は自力で救出に当たる。ところが,潜水艇3隻のうち,1隻は財政難を補うため米国の“タイタニックツアー”の運営会社に払い下げ(今回事故を起こした潜水艇ではない)られていた。もう1隻は“風呂でも沈む”ポンコツで使い物にならず,残る1隻で救出に臨むも,脱出ハッチに吸着させるゴムパッキンがメンテ不良で硬くて吸い付かないときた。おまけに,バッテリーは予備がなく(タイタニックツアー会社に付属品として一緒に売った),次の潜行のために12時間かけて充電しなければならない。救出失敗が続く中,酸素のタイムリミットが迫る…。

 見かねた欧米諸国が協力を申し出るが,3ヶ月前に就任したプーチン大統領はこれを拒否。理由は,クルスクの軍事機密が晒されることを恐れたため,何よりロシア海軍の面子を保つためだったと言われている。結局118名の乗組員全員が海の藻屑となった。映画は“国家の威信”のために葬られた兵士と家族の過酷な運命を冷徹なタッチで描き出す。無論,ロシア映画ではない。ルクセンブルク資本の出演者全員が英語でセリフをしゃべる西欧映画だ。

 潜水艦映画にはずれなし,というジンクスがある。『眼下の敵』『Uボート』『レッド・オクトーバーを追え』などなど。密閉された空間,水圧で軋む船体,徐々に失われる酸素…ロマンスが入り込む余地はなく,観客は終始緊張感に締め付けられるような気分を味わい,観終わったあと大きく深呼吸─。タダでも深海ツアーなんかに参加したくないなと思ってしまう。このジャンルでの私のお気に入りは,J・キャメロンが『タイタニック』の前に製作したSF大作『アビス』(1989・米)。

 零細スタンドの経営者をしていると,小型潜水艇の艇長になった気分になることがしばしばある。洋上では,大型戦艦のようなスタンドに囲まれて常に“潜航中”。果てしなく続く価格競争で小さな船体はガタガタ揺れる。仕入れ価格がじわじわと上がり息苦しくなる。ローコスト経営でなるべく酸素を消費しないようひたすら耐える─。とにかく乗組員(従業員)共々生き残ってゆかねばならない。しんどいなあ。結びは,切なる願いをこめて,ビートルズの『イエロー・サブマリン』の歌詞で─。

 気楽な生活を送って

 誰もがみんな 満ち足りて

 僕らはみんな 黄色い潜水艦の中で暮らしてる

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