セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.953『バイトテロ』

社会・国際

2023-06-12

 ガソリンスタンドにまつわるこんな残念なニュースが─。

『とあるTwitterユーザーが,日本を代表するクリエイター・庵野秀明氏本人が署名したと思しきサインが記されたレシート画像をTwitterに投稿し,「個人情報の漏洩」だと物議を醸している。6月5日深夜,このユーザーはアルバイト先のガソリンスタンドに庵野氏が来店したようで,《バイト先に庵野秀明来てやばい》とツイートし,乗っていた車のメーカーも明かしていた。さらにこの投稿には,会計時に発行されたと思しきレシート画像も添えられていた』─6月5日付 web版「女性自身」。

 ひとむかし前なら“きょうウチの店に有名人の○□”が来たんだよ~”と家族や友だちに話して盛り上がるぐらいのことで終わるのだが,SNSですべての情報が忽ち世間に拡散してしまういまの世の中では犯罪になってしまう。前述の記事によれば,投稿されたレシートの画像には,利用金額のほかに,クレジットカードの種類や支払回数や承認番号などがモザイク加工されることなく写っていたそうなので,これは完全にアウトの事案だ。

 レシート写真から当該GSはエネオス系列の店舗であることが判明,エネオスもこれを認めて,「個人情報保護法の順守を改めて指導する」と謝罪した。庵野氏がこの件で法的処置を求めなければ,恐らくこれ以上事は大きくならないだろうが,近年,従業員によるいたずら・悪ふざけがSNSで拡散・炎上し,企業・店舗に大きな損失をもたらすことから,「バイトテロ」と呼ばれるほど恐れられている。酷い事例としては,2019年,大阪・守口市の「くら寿司」店舗で,学生アルバイトが,厨房のごみ箱に捨てられた魚を拾い再度調理する動画が投稿され批判が殺到,テレビでも取り上げられた。消費者の間に戦慄が走り,くら寿司の株価は急落,一日で27億円相当もの損失が発生した。従業員をクビにした程度で済む問題ではない。

 「バイトテロ」は年々増加傾向にあるという。その多くは,思慮を欠いた若者たちによる,幼稚で,愚鈍で,下劣な行為だ。「道徳なき経済は罪悪である」という二宮尊徳の言葉通り,道徳の著しい低下が,通信機器の進化と相まって“悪ふざけ”を“テロ”のレベルにまで引き上げた(あるいは貶めた)と言えるだろう。無論,大半の若者は善悪の違いを概ね理解しているものの,道徳の荒廃はもはや如何ともし難く,これからも一日で企業の評判を破壊するテロは後を絶たないだろう。

 とはいえ,企業側も手をこまねいているわけにもいかない。従業員のSNS教育では誓約書を書かせるほか,就業規則などで企業側の基本姿勢を明確にしておく必要があるが,そんなものは時間の経過と共に忘れ去られてしまう。バイトテロを被った企業の中には,従業員に対して職場へのスマホなどの持ち込みを禁止していたにも関わらず,被害に遭ったというケースも多いという。そのため,従業員には過去の炎上事例を用い,バイトテロを起こした人の末路がどんなに悲惨なものかを定期的に伝える取り組みが不可欠だと専門家は提案している。多額の賠償金を求めて提訴されるリスクがあることに加え,本人の名前や住所,学校名などの個人情報が暴かれてしまえば,将来の就職や結婚にも悪影響が及ぶことになると─。

 まあ,簡単に言えば馬鹿なことをやらかさないよう脅しておくということなのだろう。従業員を性悪説に基づいて雇わなければならないとは,気の滅入ることだが,やむを得ない事なのかもしれない。今回のエネオスGSでの事案だが,状況からしてスタッフ給油の店で起きたようだ。やらかしたバイト社員は高校生だそうで,彼らの世代からは“神”のように崇められている庵野氏が目の前に現れ,サイン(レシートにだが)してもらったら興奮するなという方が無理なのかもしれないが,やっぱり「シン・バイトテロ」と断ぜざるを得ない。

 以前から,カスハラからスタッフを守るために,セルフは有効な手段だと訴えてきたが,お客をこうしたテロから守るためにも,やはりセルフによって“セーフティ・ディスタンス”を確保する必要があるのではないか。とりあえず庵野さんには,次回からセルフスタンドで給油することをお勧めしたい。

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