セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.696『三百年』

GS業界・セルフシステム

2018-02-19

 「東京商工リサーチ」によると,大阪・堺市でガソリンスタンドなどを経営する小走石油という会社が,今月7日,事業を停止し,破産手続きを開始した。負債総額は約12億円。GS経営のほかに,1997年3月には車買取専門店「ガリバー」を,1999年12月には中古クラブ専門店「ゴルフパートナー」をオープンさせ,2001年12月期の売上高は約27億5000万円を計上していたという。しかし,近年のガソリン需要の低迷により売上が減少。また「ガリバー」,「ゴルフパートナー」いずれも業績が振るわず,資金繰りが悪化して倒産に至ったと報じられている。

 この会社,なんと元禄年間(1688年~1704年)に「具足屋」の屋号で廻船問屋として事業を展開し,植物油の製造販売も手掛けていた,まさに老舗企業。三百年を越える由緒ある会社も,時代の荒波に呑まれ,多角化にも失敗して,遂にその歴史にピリオドを打つ結果となった。私は,今回のニュースをネットで見るまで,小走石油の存在をまったく知らなかったのだが,「ルブダイレクト」という潤滑油類のネット通販事業も行なっていたようだ。タービン油や圧延油,コンプレッサーオイル,工業用グリス,ホワイトガソリン等々,様々なエネオス製品を全国のJXTGの倉庫から直送販売するというもので,なかなかおもしろいことをやっていたのだなと思った次第。

 全国のGSが,生き残りをかけ,試行錯誤しながらも,多角化に取り組んでいる。しかし,先日お会いしたGS経営者は,「和田さん,やっぱりガソリンで儲けなくちゃやっていけませんよ」とおっしゃっていた。中古車販売や自動車整備もやってはいるものの,新たな収益の柱となるほどのものではない。折りしも昨年12月頃から市況が安定し,まあまあのマージンが取れるようになってきたうえ,寒波の到来で灯油もよく売れる。改めて当たり前のことを実感したと─。

 多角化を進めるにしても,それを育てるための“原資”が必要。不毛の価格競争を続けていると,来たるべきEV時代に向けて脱皮する体力がなくなってしまう。すでに,石油元売は競争相手と合従連衡し,事後調整をやめた途端,巨額の利益をたたき出している。また,外食産業大手の「すかいらーく」は,営業時間の短縮を進める一方で,ランチやディナーの時間帯に配置する従業員を増やし接客を強化したうえ,健康志向の高まりに対応した価格が高めのメニューを充実させたことで,1人当たりの購入金額が伸び,売上げはほぼ横ばいにもかかわらず,二桁増益を達成している。

 『変わらずに生き残るためには,変わらなければならない』とは,イタリア映画の巨匠・ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画「山猫」(1963)で,アラン・ドロン演ずる改革派の貴族が,古き伝統を守ろうとする老貴族(バート・ランカスター)に言い放つセリフ。この映画がお気に入りという小沢一郎氏が,かつて民主党の代表選挙でこのセリフを引用していたが,逆説的なこの言葉は名言といえよう。GS業界は相変わらず逆風に見舞われているが,何とか生き残れた暁には,残存者利益を享受することができるかもしれない。そのために,いま「変わらなければならない」のだと思う。

 今回,倒産してしまった小走石油のスタンドは,キャノピーの上に高さ10㍍はあろうかという灯台を模したランドマークがそびえ立っている。灯台は堺市のシンボルらしいのだが,江戸時代,交易で栄えた堺の街の灯台に供する燃料も,この会社は扱っていたのだろうか。この三百年のあいだに,日本の燃料油脂業界は食用の植物油,ランプ用の鯨油,暖房用の灯油,そしてモータリゼーションを支えるガソリンへと,生き残るために手を変え,品を変えてきた。そして,私たちの世代は,いままた新たなエネルギーの変化に対峙しようとしている。生き残るためにいま何をすべきか。何をすべきでないか。三百年先のことなんか分かりっこないが,せめて三年先ぐらいのことは考えて商売しなくちゃならんだろう。

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