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和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.812『忍耐力』

オピニオン

2020-09-28

 17世紀半ば,ロンドンではペストが大流行していた。14世紀には欧州の人口の3分の1以上を死亡させ,「黒死病」と恐れられた疫病だ。名門校・ケンブリッジ大学も2年間に及ぶ休校に追い込まれ,一人の男子学生は,やむなく農園を営む田舎の実家に帰省する。だが,彼はそこでリンゴが木から落ちるのを見て,重力に関するインスピレーションを得ることになった─。

 真偽のほどは定かでないが,アイザック・ニュートンが「万有引力の法則」を発見したあまりにも有名な出来事は,ペスト禍における“ステイホーム期間中”に起きたと言われている。ニュートン自身,のちに次のような言葉を残している。「もし私が価値ある発見をしたのであれば,それは才能ではなく,忍耐強く注意を払っていたことに起因するものだ」─。


 ペスト禍での自粛生活を,カレッジでの雑務から解放され,落ち着いてじっくりと思索する機会と捉え,偉業を成し遂げた,というわけだ。もちろん,広い世界に出て見聞を広め,多くの人と交流して成長することは大切なことだが,それが叶わないからといって悲観する必要はない。ニュートンが,自粛生活を「忍耐強く」過ごしたと述懐しているのは意味深い。


 忍耐とは,試練や逆境をただ我慢することではない。ある文献は忍耐について,「単なるあきらめではなく,燃えるような希望をもって事態に耐えることのできる精神であり,人はこの特質によって,逆風に面しても自分の足で立ち続ける。これは,最もつらい試練でも栄光に変えることのできる美徳である。この美徳は,苦痛の向こうに目標を見るのである」と注解している。


 コロナ禍が,一時的な「我慢」によって乗り切れるものでないことが判ってきて,まだ見えぬゴールに向かって長距離走を余儀なくされている以上,私たちは「忍耐」して走り続けることを決意しなければならない。そして,ニュートンのように,この機会を,いままでできなかったことに挑戦する機会,これまで見過ごしてきたことを見直す機会とするなら,こんな時代でも,喜びを抱いて過ごすことさえできるかもしれないのだ。 


 個人的には,インドア志向が幸いして,旅行やスポーツができなくても,苦痛を感じない。2年前に好きな酒もやめたので,居酒屋やバーにも行かなくなった。自宅と職場を往復する毎日だが,それなりにやることがあって,退屈することはない。だが,あいにくニュートン卿のような頭脳を持ち合わせていないため,何か素晴らしいアイディアを思いついたり,画期的な発明をするようなことはない。それでも,一日が終わるころには,「ああ,きょうも一日を乗り切った。またゴールに一日近づいた」とささやかな達成感をかみ締めながら床に就く。睡眠時間はたっぷり7時間。(苦笑)

 “そんなの忍耐力でもなんでもなくて,ただの能天気じゃねえか”と笑われるかもしれないが,とにかく心身の健康をキープすることが第一。あるマラソンのコーチが「鉄則」として教えることは,「速い走者に付いてゆこうとしてはいけない。自分のペースで走りなさい。そうしないと,疲れ果てて落伍することになる」ということだそうだ。自制心を働かせ,忍耐強く走り続けることが何より肝要なことなのだ。


 GS業界は,販売不振が“安定化”しており,もはや劇的な回復は望めそうもない。それでも,まるで重力に逆らって空を飛ぼうとでもしているのか,と思えるような安売り店がいる。しかし,焦ることなく,自分の体力・能力に見合ったペースで地道に走り続けよう。採算価格を堅持し,ローコスト経営を断行してゆこう。コロナ禍における現実を,「忍耐強く注意を払って」生き抜いてゆこう。

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