セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.984『災害におけるEV』

社会・国際

2024-01-22

 先日,行きつけの飲食店で聞いた話。店主の娘さんが,年末に帰省のため山梨県から自動車で名古屋に向けて出発した。自動車はEV。途中のサービスエリヤで充電する予定だったのだが,充電器に「故障中」の貼り紙。ドライブ計画がすっかり狂ってしまい,高速道路を降りてスマホで最寄の充電スタンドを探しながら十時間近くかけてたどり着いたという。「ホント,充電スタンドが少な過ぎて,怖くてEV乗れないわ」と女将さん。「でもね,日本って実は充電ポイントが3万か所ぐらいあって,スウェーデンよりずっと多いし,フランスと同じぐらいあるんだよ」と私。「へぇ,そうなんですか」 「ただし,日本は人口も自動車台数もフランスのほぼ倍だから,そういう意味ではまだまだ少なく感じるでしょうけどね」─。

 2023年上半期(1~6月)の新車販売におけるEVのシェアは,米国で55万台 約7.2㌫,EUで112万台 約12.1㌫,中国で271万台 約20.5㌫と伸張が続いているが,日本は2万2千台 約1.6㌫にとどまっている。このうちの約半数を占めるのは日産・三菱の共同開発による世界初の軽EV「サクラ」と「ekクロス」。 1回の充電で走れる距離は130~150㌔程度なので,仮に甲府市から名古屋市まで走破するとなると,2~3回は充電ポイントに立ち寄らなければならない。山梨県と言えば,昨年7月に県内の「道の駅」のEV充電器が,猛暑のため機械内の温度が40℃ぐらいになって故障してしまったということがあった。

 国内において,2010年代に国が補助した公共・民間のEV充電器が更新期に入り,2023年の閉鎖・休業数は8月までで前年の2.5倍の2700か所に達した。前年累計の1098か所をを大きく上回っている。(日本経済新聞調べ) また,給電時間を左右する急速充電器の出力は日本では50㌔㍗未満が6割を占めるのに対し,欧米では250〜350㌔㍗が主流。また,1カ所あたり充電器が1基という拠点がほとんどなので,高速道路など利用の多い場所では充電渋滞も生じている。そんなこんなで,日本のEVシフトは遅々として進まない。

 だが,足踏みを続けているあいだにEVに対するネガティブな情報も増えてきた感もある。『米レンタカー大手のハーツ・グローバル・ホールディングスは11日,レンタル向けに保有するEVの3分の1に当たる2万台を売却すると発表した。EVはガソリン車に比べ補修費などが高く採算が悪いうえ,需要も思ったように伸びていないことを理由に挙げた。売却益は通常のガソリン車などの購入に充てる』─1月12日付 「日本経済新聞」。

 また先週,米国中北部地域を寒波が襲い,体感気温が氷点下30度まで落ち込んだシカゴなど一部地域でテスラが展開する充電施設「スーパーチャージャー」で充電を待つあいだにバッテリーがあがってしまい,動けなくなる事態が続出したという。17日付の「ニューヨークタイムズ」は,『スーパーチャージャー周辺は自動車の墓場に変わった』と,少々アイロニカルな表現でこれを伝えている。EVは一度バッテリーがあがってしまったら,スマホのように“プラグ・アンド・ゴー”というわけには行かず,充電する前にプレコンディショニングボタンを押して,バッテリーを急速充電に最適な温度にする必要がある。ちなみにテスラのオーナーズマニュアルには,「極端な寒冷時や凍結するような状況では,充電ポートラッチがそのまま凍ることがあります」とある。

 マイナス30℃といえば,バナナで釘が打てるほどの寒さだ。(むかしむかしモービルオイルのテレビCMで見たな) 日本では北海道の一部の地域でしか生じ得ない環境であり,この一事をもって“だからEVは…”などと断ずるのは愚かなことだ。ただ,温度に敏感なリチウムイオンバッテリーを主力とするいまのEVは,寒冷地に弱いのは事実だ。今回の能登半島地震では,20日の時点でいまだ6300戸に電気が届いていない状況で,被災地でのEVの利用は厳しい。ただ,ひとたび電気が通れば,陸路タンクローリーで燃料を運んでこなければ埒の明かないGSに比べ,ESは直ちに稼動体制に入れる。また,排ガスを出さないので雪中での車中泊にはEVのほうが断然安全だ。二次電源としても活用できる。どうせ周回遅れなら,災害救援という観点から,EVの環境整備を進めてみてもいいかもしれない。

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