セルフ給油システム・周辺機器 販売・施工
和田商事株式会社

セルフ雑記帳

和田 信治

vol.983『待ち受けるハードル』

政治・経済

2024-01-15

 『2023年の人手不足倒産は260件となり,統計として遡れる2013年以降で最多を更新した。これまで最多だったのは2019年の192件で,国内景気の上向きなどによって人手不足が顕著に表れていた時期だった。2020 年以降は新型コロナが拡大し経済活動が制限されたなかで,一時的に人手不足感も緩和されていた。2023年は本格的に「アフターコロナ」が到来し,経済活動が本格化したことで,人手不足は再び重大な経営リスクとして顕在化するようになった。4月には月次としては過去最多の30件に達し,8月以降は5カ月連続で20件以上を記録,これまでにないペースで発生し続けた』─1月12日付「帝国データバンク」。

 年々深刻化する人手不足問題。ずいぶん前から警鐘が鳴らされてきたが,有効な対策が打たれないままここまできた。もはや手遅れだと指摘する有識者もいる。この先,日本の労働力不足に更なる拍車をかけるハードルが次々に控えている。まず,「2024年問題」。4月から時間外労働の上限規制が適用される。倒産した260件のうちの約半数は,建設・物流業界。今後,経営環境はますます厳しくなるのは必至だ。トラックドライバー不足の問題は以前も取り上げた(vol.952)が,とにかく日本のドライバーの賃金が先進国では突出して安いことが一番の問題。昨年7月,米国最大の物流企業のひとつUPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)がストライキ直前に妥結した労働協約によると,最も給料が高いフルタイムドライバーの時給は5年後には平均して49㌦(7300円)まで賃上げされる予定で,5万㌦(約740万円)の手当などを含めると5年後にフルタイムドライバーが受け取る年収は平均して約17万㌦(約2500万円)になる予定だとか。ただ,これでも現在のインフレ下においては不十分とのこと。単純に比較すべきではないものの,日本のドライバーの平均が約470万円であることを考えると,大幅な賃上げをしない限りドライバーはますます不足してゆくことだろう。モノが届かないよりは,運賃が高くても運んでもらえる方がマシに決まっている。無論,ガソリンも。

 次のハードルは「2025年問題」。第1次ベビーブームの団塊の世代(1950年以前に生まれた人たち)が,すべて後期高齢者になることに伴う問題のことで,人口の約18㌫にあたる約2,180万人が75歳以上になり,超高齢化社会が加速すると予測されている。人手不足を補うために,高齢者を再雇用するなどして凌いできた企業も立ち行かなくなってくる。人間は齢をとれば,体力のみならず,記憶力や判断力も衰えてくる。建設・物流業のみならず,様々な業種で事故やトラブルが発生する件数が増加してゆくことだろう。

 第3のハードルは「2030年問題」。日本人口の実に3分の1が65歳以上になると予想され,合わせて出生率の低下により,15歳から64歳の生産年齢人口が激減してゆくと懸念されている。そして,追い打ちをかけるように,1974年以前に生まれた第2次ベビーブーム世代が65歳以上の高齢者となる「2040年問題」がやってくる。65歳以上の人口が約35㌫を占めるに及んで,日本経済はこれ以降,マイナス成長になると考えられている。ここまでくると,医療・介護業界は,利用者急増,従事者激減が顕在化し,人手不足が人の命にかかわるまでになってくる。社会保険料は現在の1.4倍107兆円まで膨れ上がると試算されており,現役世代の収入の3分の1が社会保険料に充てられると。

 そんなこんなで,このままだと日本は十数年後には,10億㌧以上の荷物が運べなくなり,公務員は2割不足してゴミ収集日が少なくなったり救急車を呼んでもなかなか来てくれないなど公共サービスが滞りがちになり,老朽化した道路やインフラ施設は修繕されずに放置され,ただでさえ減り続けている農業従事者はさらに3割減少し国内生産量も漸減する等々,これまであたりまえと思われていたサービス,当たり前に手に入っていたものが,そうでなくなってゆくと見られている。無論,これらの予測がすべて正しいかどうかは分からないが,今回の能登半島地震の被災地の状況を見ても,人手が足らないということが,一朝有事においてどれほど深刻な事態となるか容易に理解できる。自分の業界,自分の会社さえ良ければいいという時代ではなくなってきたということだ。

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